声帯手術のマエストロが著書を出版

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朝日新聞京都2006.6.2.5
声帯手術のマエストロが著書を出版
 声の病気で「一色の法」と呼ばれる甲状軟骨形成術を開発したことで世界的に知られる中京区の一色クリニック院長、一色信彦さん(76)=京都大名誉教授=が著書「声の不思議」(中山書店)を出版した。半世紀のキャリアがあり、1500人以上を診てきた。一色さんは「とにかく声は不思議で謎が多い。本が、声に興味を持つきっかけになれば」と話している。
 京大医学部を1954年に卒業。医学部付属病院にいた77年、局所麻酔による手術方法を発表した。従来の治療は声帯に直接施したが、一色さんが開発したのは声帯を支える甲状軟骨の位置を調節する方法だった。
 例えば、声帯がけいれんして声が詰まったり、震えたりする病気がある。けいれんを止める治療法はまだないが、声帯を支える甲状軟骨を広げれば、声が出るようになる。局所麻酔のため、声を出させながら手術することができ、声帯に触れないので安全性も高い。現在、世界各地で導入されつつある手術法だ。
 10年近くうまく発声ができないため、周囲から奇異のまなざしを向けられてきたと涙ながらに訴える人もいた。声帯の間を4ミリほど広げる手術で声がスムーズに出るようになると、笑顔に変わった。「声は自己表現の一つ。しゃべれないということは想像以上につらいものです」と一色さんは話す。
 最近では性同一性障害の患者も多く訪れる。女性への性別適合(性転換)手術をしても、低い声に違和感を覚える人がいる。声帯の間隔を狭くする手術で、女性のような声に変わる。
 今春、韓国人の世界的オペラ歌手べー・チェチョルさんが訪れた。べーさんは甲状腺がんで手術を受けて声帯をつかさどる神経を切り、空気が漏れるほどの声しか出なくなった。支援者の音楽プロデューサー輪嶋東太郎さんらがドイツや英国で医師を探した際、「マエストロ(巨匠)」として名が挙がったのが一色さんだった。
 手術では、声帯の位置を楽器の調律のように1ミリ単位で変えていった。「声を出してみて」「これじゃ、だめ」。何度も調整を繰り返し、4時間に及んだ手術の最後、べーさんが賛美歌を歌った。透き通る美しい声に、手術室は静まりかえった。輪嶋さんは「リハビリに時間がかかるかもしれないが、復活を信じている」と話す。
 著書「声の不思議」は、声の病気への質問、治療法の変遷などを紹介。付録のCDには、性同一性障害の患者の術前、術後の声などが録音されている。問い合わせは中山書店(03・3813・1100)へ。

声の不思議―診察室からのアプローチ

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