トムをジェーンに。最終回

彼女の周りにくりひろげられる論争を尻目に、ニコルは相変わらず部屋中をバービー人形で一杯にし、お客さんには楽しげに歌を披露している。彼女は幸せそうで、健康的で、おそらくはちょっぴり甘やかされている女の子だ。


MTFTSのHeather Wrightは、ニコルが3歳のときに初めて会ったのだが、6週間前にひさしぶりにニコルに再会した。両親が、トランスジェンダーについてのとある会合でのHeather Wrightの講演を聞きにニコルをつれいったからだ。


Heather Wright は語る。「ずいぶんと変わっていました。性格もずいぶん変わっていて、最初は本人だとわかりませんでした。言われなければ、最後までわからなかったでしょう。今回は彼女は注目の的でした。とても社交的でした。間違いなく以前よりずっと元気でした。今では女の子としての人格に見えました。とても幸せそうでした。前に見たような内気な子どもではありませんでした。」


1ヶ月前、地元の学芸会で、ニコルは始めて舞台で演じた。閉幕のとき、ステージは暗くなり、子どもたちのコーラス隊が歌を歌った。舞台上を歌いながら行進し、一生懸命演じるさまは、他の子どもたちと同様で、一番小さくて、頭ひとつ身長が低いこと以外には目立ったことはなかった。


観客や出演者たちは、もし、ニコルがかつては男の子だったと知ったら、ニコルは人まえでも女児として幸せにやっていけることに、疑いを持たなかっただろうと、両親は語る。



ニコルの10歳の姉のアンジェラは、 当分の間、弟が妹に変わったことに慣れるのには大変だと語った。


「私がもう少し小さかったときは、これは一時的なことではと思っていた。」とアンジェラは語る。現在最もアンジェラを悩ませていることは、ニコルがアンジェラの服を勝手に着ることだ。「でも、妹がいるって言うことはそういうことよね。これまで妹はいなかったから。」


外の人々からの反応に関しては、アンジェラは質問に答えるのには慣れっこになった。


「少々おかしいんだけど。友達は皆、『男の子?』って聞くの。でも私は、『違う、女の子よ』と答えるけど、大変ねよ。皆が私のところに来て、弟?ってきくけど、妹よ、と答えるの。そしたら、みんな、えー、って」