DSM-IVの境界性人格障害の診断基準をあらためて読んでみると、
>(1)現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする気違いじみた努力
というのがあってびっくりした。
というのも「気違いじみた」という言葉が使っているからだ。
これは3点においておかしい。
1.「気違い」という差別用語を用いている。
2.精神疾患の定義中に、「気違い」という精神疾患をさす言葉を使っている点。これはトートロジーである。
とここまで書いたところで、DSM-IVの改訂版であるDSM-IV-TRの日本語訳では、
>1)現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力
に変わっていることに気がついた。
さすがに誰かが気がついて、改訂版のときに日本語訳を変えたのであろう。
だがこの日本語訳もちょっと疑問がある。
英語ではこの部分、
>1. frantic efforts to avoid real or imagined abandonment.
である。
「気違いじみた」「なりふりかまわない」は「frantic」の訳である。
英英としてはfranticは、こんな意味。
http://www.m-w.com/cgi-bin/dictionary?book=Dictionary&va=frantic&x=11&y=17
1 a archaic : mentally deranged b : emotionally out of control
2 : marked by fast and nervous, disordered, or anxiety-driven activity
大体日本語訳は合ってる気もする。
でも「frantic」は、もっと厳密には、「やみくもな」「めちゃくちゃな」みたいな感じで、その努力は報われない、という感じがする。
一方で、「気違いじみた」「なりふりかまわない」は「非常に一生懸命」という意味で、その努力は報われる、という正反対の意味になる。
つまり、日本語の診断基準だと、境界性人格障害の「見捨てられないための努力」は報われて、英語の元の意味だと報われない、という正反対の意味になる気がする。