性同一性障害と発達障害の関連については、アスペルガーとの関連についての文献は散見するが。
MTFにおいて、より関連の深そうな、発達性協調運動障害という疾患概念があることに気がついた。
簡単に言えば、発達性協調運動障害とは、運動音痴のことであるが、わが国で、精神疾患としての関心はまるで集めてないようである。
そもそも、運動音痴だからといって、精神科に受診はしないだろうし、実害もあまりないこともあろう。
日本語文献も乏しいので、一応今日は、「カプラン臨床精神医学テキストDSM‐IV診断基準の臨床への展開」の引用・参照をする。(p731-733)
発達性協調運動障害(developmental coordination disorder)
疫学
学童の約6%。
男女比。2:1から4:1。
診断:DSM-IV
315.4発達性協調運動障害
A.運動の協調が必要な日常の活動における行為が,その人の暦年齢や測定された知能に応じて期待されるものより十分に下手である。これは運動発達の里程標の著名な遅れ(例:歩くこと,這うこと,座ること),物を落とすこと,” 不器用”,スポーツが下手,書字が下手などで明らかになるかもしれない。
B.基準Aの障害が学業成績や日常の活動を著明に妨害している。
C.この障害は一般身体疾患(例:脳性麻痺,片麻痺,筋ジストロフィー)によるものではなく,広汎性発達障害の基準を満たすものでもない。
D.精神遅滞が存在する場合,運動の困難は通常それに伴うものより過剰である。
経過と予後
発達性協調運動障害児の治療例と未治療例の予後を縦断的に調べたもので信頼できる報告はない。平均または平均以上の知能をもつ子供では、協調運動の欠陥を補うことを学ぶため、好ましい経過をたどることがいくつかの研究により示されている。一般に青年期や成人の生活に至るまで不器用さは残る。
未治療のままの重症例では、多くの二次的併害が生じることがある。例えば患者は学業およびそれ以外の作業において失敗を繰り返し、仲間集団(peer group)に何度加わろうとしてもうまくいかず、ゲームやスポーツが苦手である。こうした問題は患者の自尊心を低下させる。その結果、患者は自分を不幸せと感じるようになり、引き込もりがちとなる。協調運動障害により生じた欲求不満に対する反応として、次第に重度の行動上の問題を呈するようになる場合もある。このような子供は適応のためあらゆる機能を活用することが期待される。一般に、運動機能以外の発達の遅れ、表出性言語障害、受容―表出混合性言語障害などが随伴する。
引用以上。
以下、疑問、考察などのメモ。
・ MTFによく見られる幼少時の運動嫌いのなかに、発達性協調運動障害の例もありか。
・ 鑑別としては、女性的運動(ゴムとび、ダンス)、書字、衣服の着脱の巧拙等がポイントか。
・ 性同一性障害と発達性協調運動障害の合併例の場合、ホルモン障害等の同一原因によるものか。あるいは、発達性協調運動障害があるゆえ、男性集団への適応が困難で性別違和を覚えるのか。
・ 発達性協調運動障害がある場合、男性としてより、女性としての方が適応が容易なのか。
・ 「男女比。2:1から4:1。」というのは、実際にそうなのか。あるいは男児のほうが問題視されやすく、診断されやすいのか。
・成人の性同一性障害の場合、発達性協調運動障害があっても、治療方針には特に影響を与えないのではないか。
・ 小児・思春期の性同一性障害の場合、発達性協調運動障害があると、鑑別、治療方針に影響を与えるのではないか。