法のはざま“苦悩”あす手術 大阪の男性 性同一性障害

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法のはざま“苦悩”あす手術 大阪の男性 性同一性障害

 性同一性障害GID)に悩む大阪府堺市派遣社員、森村さやかさん(45)=通称=が、二十七日、大阪医科大学大阪府高槻市)で一例目(国内四カ所目)となる性別適合手術を受ける。GIDについては、平成十六年、性同一性障害特例法が施行され、患者を取り巻く環境は大きく変わった。が、森村さんのように、子供がいる場合は戸籍上の性別変更が認められないなど、対象外になっている患者も多い。「現行の法には不備がある。実態に即したものに」。手術を前に森村さんは、法改正を強く求めている。(飯塚友子)
 森村さんが自分の体に違和感を持ったのは中学生のころ。声変わりした自分の声はどこか不快だった。「男らしくしろ」という周囲の声にもプレッシャーを覚える。とまどいが態度にも表れたのだろう、いじめがはじまった。
 「でも当時はGIDなんて分からない。自分を責め、できるだけ『男』を演じた」
 男性としての生活を送ろうと、大学卒業後は会社勤めもし、結婚もした。子供もできた。普通以上に幸せな生活のはずだった。だが、そんな毎日にひどく疲れ、離婚。ひとりになってみると少し楽にはなったが、オフィスでは男性を演じ続ける日々が続いた。
 十四年、人気テレビドラマ「3年B組金八先生」でGIDの少女が話題になった。社会的にも、GIDへの理解が進んだ。思い切って、職場でGIDであることを宣言して、女性用のパンツスーツを着用するようになった。男性ではない自分。だが、もちろん女性でもない。更衣室やトイレは身障者用を使った。「服は女性用だけど、義務づけられている名札には男性名。周囲は明らかに困惑してましたね」。結局、いづらくなって約二年後、辞めた。
 いまは派遣社員として働きながら、性同一性障害の立場から発言。十六年には特例法が施行され、戸籍上の性の変更も可能になった。ようやく開いた扉。だが、戸籍変更は、結婚しておらず子供がいないことなどが条件になる。子供がいる森村さんは対象外なのだ。
 これらのハードルを乗り越えても、家裁への申し立てに二人の医師の診断書が必要であるなど、多くの手続きが必要。さらに医療行為としての性別適合手術を行う医療機関もまだ極端に少なく、ようやく今回、大阪医科大が国内四カ所目となる手術に踏み切る。
 森村さんは、あす手術を受ける。しかし、体を変えても戸籍は変えられない。「特例法には、付則で三年後の見直しが明記されている。誰もが自分らしく生きられる社会のため、法の不備をただしていきたい」
 「性同一性障害と法」などの著作もある神戸学院大の大島俊之教授は「子なし要件は立法のミスだと考えている。子なし要件があるのは先進国では日本だけ。現実に法で救われない人がいる以上、子なし要件を考え直すべきではないか」と話している。
≪子持ち…戸籍上の変更不可能≫
 心と体の性が一致しない性同一性障害GID)については、平成十四年、競艇安藤大将選手がGIDであることを公表したり、十五年に患者の上川あやさんが東京都世田谷区議に当選するなどして社会的認知が進み、性的少数者の差別撤廃への動きが本格化するようになった。
 法制面では十六年、戸籍上の性別変更を認める性同一性障害特例法が施行された。戸籍上の性別変更には、結婚していない▽子供がいない▽二十歳以上−などの条件をすべて満たした上で家裁の審判を待たねばならず、「実態に合わない」などの声も上がっている。今年一月には、子供がいないことを撤廃するよう求める団体「GID特例法『現に子がいないこと』要件削除全国連絡会」もできた。同法は十九年に見直される。
 公的な手続きを経た性別適合手術は、これまでに、埼玉医大、岡山大、関西医大で行われた。しかし国内では医療機関が少ない上、費用が高いため、海外で手術を受ける人も多い。
 こうした需給のアンバランスを背景に“ヤミ手術”も横行しているとされる。
産経新聞) - 1月26日15時51分更新