性同一性障害 厳しい戸籍の性別変更

2017.3.26 読売新聞大阪版

性同一性障害 厳しい戸籍の性別変更
適合手術の要件「議論を」


心と体の姓が一致しない性同一性障害GID)で、性別適合手術などを要件に性別変更を認める現行法は厳しいとして、緩和を求める声が、当事者や関係学会などから上がっている。「LGBT」という言葉が少しずつ社会に認知され、対応が進む中、性別の変更要件についても議論が深まりつつある。
(沢本梓)


緩和求める声
 2004年施行の性同一性障害特例法では、戸籍上の性別変更には、家庭裁判所で審判を受け、認められる必要がある。認める要件としては、①20歳以上②婚姻をしていない③未成年の子がいない④生殖腺がないか、機能を永続的に欠く⑤(形成手術で)他の性別の性器に似た外観を備えている−の五つがある。
 このうち、④、⑤の要件をクリアするのに必要な性別適合手術について、GID学会の理事会は今月19日、札幌市で開催した総会で、「性別適合手術を要件の一つにしていることは望ましくない」などとする声明をまとめた。
 こうした声明は、性別適合手術に反対する国際的な流れを受けたものだ。
 世界保健機関(WHO)などは14年、性別変更のための性別適合手術について、「強制された、または不本意な断種手術は人権侵害にあたる」とする声明を出した。欧州を中心とする約30か国でも、手術なしで性別変更できるよう法律を改正するなどの動きが広がる。
 日本では15年、国会に「LGBTに関する課題を考える議員連盟」が発足。特例法の要件緩和も議題の一つとし、当事者のヒアリングなどを続けている。


治療は3段階
 GIDの国内の治療体制はどうなっているのか。GID精神疾患の一つに分類され、日本精神神経学会ガイドラインでは治療は3段階に分かれる。
 最初は、精神科を受診してカウンセリングを受ける。苦悩が軽減されない場合、ホルモン療法を行う。男性に性別を変える人は生理が止まるなどする。女性に性別を変える人は乳房が膨らんだり、体毛が薄くなったりする。第3段階で性別適合手術を行う。それぞれ精巣切除、子宮卵巣摘出を行って生殖能力をなくし、希望する性に外見や機能を近づける形成手術を行う。
 一方、GID患者の中には手術に踏み切れない人も多い。同学会の調査によると、GIDで国内の医療機関を受診した人は延べ約2万2000人で、このうち性別適合手術を受けたのは2割だった。
 岡山県在住の臼井崇来人(たかきーと)さん(43)は、女性として生まれ、13年にGIDと診断された。「健康上のリスクが大きい」などとして手術は受けず、16年3月、交際相手の山本幸さん(39)との婚姻届を岡山市に提出したが、同性を理由に受理されなかった。このため、「性別適合手術の強要は、幸福追求権などを定めた憲法13条に違反する」などとし、16年12月、岡山家裁津山支部に男性への性別変更を求める申し立てをした。
 しかし、今年2月、同支部は「特例法の規定が憲法に違反するほど不合理とは言えない」と却下した。
 山本さんには7歳の長男がおり、臼井さんは、父親として育てていきたいという。「同じGIDでも、手術したい人も、そうでない人もいると認めてほしい」とし、広島高裁岡山支部に即時抗告した。


大きな不利益
 特例法で、患者らが緩和を求める要件がもう一つある。③の「未成年の子がいない」だ。結婚し、子供を持ってからGIDと診断される人は少なくないからだ。子どもが成人するまで外見と戸籍の性が異なることで、仕事上など、大きな不利益もあり、要件の削除を求める医師も多い。
 GID学会の中塚幹也理事長は「『性別適合手術』を望まない人にとっては、手術のリスクやホルモン注射を生涯打ち続けないといけないなど、不利益があることは確かだ。『未成年の子がいない』も含め、現在の要件が必ず必要なのか、議論していくべきだ」と話す。