性別変更に必要な手術「合憲だが不断の検討を」 最高裁

https://www.asahi.com/articles/ASM1S4RBTM1SUTIL024.html
朝日新聞
性別変更に必要な手術「合憲だが不断の検討を」 最高裁

岡本玄 2019年1月24日15時23分

 心と体の性が一致しない性同一性障害の人たちの戸籍上の性別変更を可能にした特例法をめぐり、生殖機能を失わせる手術を必要とする要件の違憲性が問われた家事審判で、最高裁第二小法廷(三浦守裁判長)は、「現時点では合憲」とする初判断を示した。ただ、社会状況の変化に応じて判断は変わりうるとし、「不断の検討」を求めたほか、2人の裁判官は「憲法違反の疑いが生じていることは否定できない」という補足意見を述べた。
 決定は23日付。4人の裁判官が全員一致した意見だった。補足意見は鬼丸かおる、三浦守両裁判官が連名で述べた。
 特例法は2004年に施行され、「20歳以上」「未成年の子がいない」などの5要件を満たせば、家裁の審判で性別を変えられるようになった。問題となったのは「生殖腺や生殖機能がないこと」という要件。卵巣や精巣を摘出する性別適合手術が必要となるため、「性別変更の壁」と指摘されており、審判では憲法13条(個人の尊重・幸福追求権)や14条(法の下の平等)との整合性が争われた。
 最高裁はこの要件について、審判を受けるために望まない手術をやむなく受けることがあり、「(憲法13条が保障する)意思に反して身体を侵されない自由を制約する面は否定できない」との見解を示した。
 一方で、要件が定められた背景を検討し、?変更前の性別に基づく生殖機能で子どもが生まれれば、親子関係に問題が起き、社会を混乱させかねない?生物学的な性別で長年、男女を区別してきており、急激な変化を避ける配慮に基づく――と指摘した。

 そのうえで、こうした背景事情への配慮が適当かどうかは、社会の状況の変化で変わると判断。要件の違憲性は「不断の検討を要する」とし、「現時点では」という条件付きで合憲と結論づけた。

 鬼丸、三浦両裁判官は補足意見で?について「そういう事態が生じること自体が極めてまれで、混乱といっても相当限られている」と指摘した。性別変更を認められた人がこれまで7千人を超え、学校や企業で性同一性障害に対する理解が進むようになった変化を踏まえると、「違憲の疑いが生じている」と述べた。

 さらに、生殖機能を失わせる要件については世界保健機関(WHO)などが14年に反対声明を出し、17年には欧州人権裁判所が欧州人権条約に違反するとの判決を出したという世界の潮流にも言及。「多様性を受け入れるべき社会の側の問題」として、「さらに理解が深まり、各所で適切な対応がされることを望む」と結んだ。

 審判を申し立てたのは、女性の体で生まれ、男性として生きるトランスジェンダーの臼井崇来人(たかきーと)さん(45)=岡山県新庄村。16年12月、卵巣摘出などの手術を受けないまま、性別変更を求める審判を岡山家裁津山支部に起こした。同支部と広島高裁岡山支部がいずれも認めなかったため、最高裁に特別抗告していた。


https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190124/k10011789831000.html
NHK

戸籍の性別変更に手術必要 「憲法に違反しない」 最高裁初判断
2019年1月24日 18時08分LGBT
心と体の性が一致しない性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとする法律の規定について、最高裁判所は「憲法に違反しない」とする初めての判断を示しました。一方で、裁判官4人のうち2人が「現時点では憲法に違反しないが、その疑いがあることは否定できない」とする補足意見を述べました。
性同一性障害と診断された岡山県に住む45歳の戸籍上の女性は、戸籍の性別を変更するには、生殖腺を取り除く手術を受ける必要があるとする法律の規定は憲法に違反するとして、手術をしないまま性別を男性に変更するよう裁判所に申し立てました。

岡山家庭裁判所津山支部広島高等裁判所岡山支部で行われた審判で、いずれも訴えが退けられ、最高裁判所に特別抗告していました。

最高裁判所第2小法廷の三浦守裁判長は「法律の規定は、変更前の性別の生殖機能によって子どもが生まれると社会に混乱が生じかねないことなどへの配慮に基づくもので、規定の目的などを総合的に検討すると、憲法に違反しない」とする初めての判断を示し、24日までに申し立てを退けました。

一方で、4人の裁判官のうち2人は「手術は憲法で保障された身体を傷つけられない自由を制約する面があり、現時点では憲法に違反しないがその疑いがあることは否定できない。人格と個性の尊重の観点から社会で適切な対応がされることを望む」とする補足意見を述べました。
性別変更は約7800人
性同一性障害の人が、戸籍上の性別を変更することができるとする特例法は、平成16年に施行されました。

特例法は平成20年に改正され、20歳以上で、生殖腺がないことなどの要件をいずれも満たす場合、家庭裁判所に性別の変更を求めることができ、裁判所が認めれば戸籍上の性別を変更できるとしています。

司法統計によりますと、法律が施行されて以降、おととしまでに(平成29年)およそ8000人が家庭裁判所に申し立て、性別変更が認められたのは、およそ7800人となっています。
人権団体「最高裁の判断は時代に逆行」
最高裁判所が、性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとした法律の規定を、「憲法に違反しない」とする判断を示したことについて、国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、NHKの取材に対し、生殖能力をなくす手術を義務づけることは「強制不任」に該当すると指摘しました。

そして、「WHO=国際保健機関など、健康と人権を扱うさまざまな国際機関が強制不妊を広く批判している」と述べました。

そのうえで、最高裁の判断について、「国際人権基準に反し、時代に逆行し、重大な人権違反を容認するものであり、極めて残念だ」と、批判しました。

ヨーロッパ各国では、最近まで、性同一性障害などトランスジェンダーの人が、法律上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術を受けることが義務づけられていましたが、おととし、ヨーロッパ人権裁判所が、「人権侵害」だとする判断を出したこともあって、手術を必要としない国が増えています。

毎日
https://mainichi.jp/articles/20190124/k00/00m/040/122000c
性別変更に「不妊手術必要」は合憲 裁判官2人が「違憲の疑い」指摘 最高裁が初判断
 生殖機能をなくす手術を性別変更の条件とする性同一性障害GID)特例法の規定は、個人の尊重をうたう憲法13条などに違反するとして、戸籍上の女性が手術なしで男性への性別変更を求めた家事審判で、最高裁第2小法廷(三浦守裁判長)は23日付で「現時点では憲法に違反しない」との初判断を示し、性別変更を認めない決定を出した。裁判官4人全員一致の意見。ただし、うち2人は手術なしでも性別変更を認める国が増えている状況を踏まえて「憲法13条に違反する疑いが生じている」との補足意見を示した。


 審判を申し立てたのは、岡山県新庄村の臼井崇来人(たかきーと)さん(45)。岡山家裁津山支部の決定などによると、臼井さんは体は女性だが心は男性でGIDと診断された。「身体的特徴で性別を判断されるのは納得できない」として、子宮と卵巣を摘出する手術を受けずに16年に性別変更を申し立てた。同支部は17年に申請を認めず、18年に広島高裁岡山支部も支持。臼井さんが最高裁に特別抗告していた。

 小法廷は、規定の趣旨を(1)性別変更後に元の性の生殖機能により子が生まれる混乱の防止(2)生物学的な性別に基づき男女の区別がされてきた中で、急激な変化を避ける配慮――と指摘。「こうした配慮の必要性は社会の変化に応じて変わりうるもので、不断の検討を要するが、現時点では違憲とは言えない」と結論付けた。
 一方、三浦裁判長(検察官出身)と鬼丸かおる裁判官(弁護士出身)は共同補足意見で「近年は学校や企業などでGIDへの取り組みが進められ、国民の意識や社会の受け止め方に変化が生じている」として、規定には違憲の疑いが生じているとの見解を示した。また「性同一性障害者の苦痛は多様性を包容すべき社会の側の問題でもある」とも述べた。【伊藤直孝】
 【ことば】性同一性障害GID
 身体的な性別と心理的な性別が一致せず、強い違和感に苦しむ疾患。正確な統計はないが、国内の患者数は4万人以上との推計がある。2004年施行の性同一性障害特例法は、複数の医師にGIDと診断された▽20歳以上▽結婚していない▽生殖機能を欠く状態にある――などの条件を満たしている場合、家庭裁判所に審判を申し立てて認められれば戸籍の性別を変更できると定める。最高裁の司法統計によると、制度施行から17年までの14年間で約7800人が性別を変更した。