【インサイド】性同一性障害者親子確認訴訟 「次男の父は誰?」家族の形問う

インサイド性同一性障害者親子確認訴訟 「次男の父は誰?」家族の形問う
 ■血縁にこだわらず認めて
 性同一性障害で性別を女性から男性に変えた大阪府東大阪市の会社員(30)が4月、「非配偶者間人工授精」(AID)で妻(31)との間に生まれた次男(1)との親子関係の確認を求める訴訟を大阪家裁に起こした。会社員側には戸籍に性別を変更したという“生殖能力のない証拠”があったため、自治体側は会社員を父親と認めなかった。性差別か、法の限界か。裁判所が示す「家族の形」が注目される。(清宮真一)
 「一般的な夫婦の場合、第三者精子で生まれた子供であっても親子関係が認められる。自分が認められないのは性同一性障害者への差別としか思えない」
 4月17日、会社員は家裁への提訴後に大阪市内で記者会見した。
 訴状などによると、提訴への経緯はこうだ。
 会社員は平成20年3月、性同一性障害特例法に基づき、性別を女性から男性に変更する審判を家裁で受け、4月に妻と結婚。AIDで21年11月に長男、24年5月に次男が生まれた。
 6月、正式な夫婦間の子供(嫡出子)として、次男を本籍地の東京都新宿区に届け出たが、区は会社員に生殖能力がないことを理由に父と認めず、戸籍の父親欄を空白にした。
 一般的に、出生届では父子の血縁が判別できないため、男性側に不妊の原因がある夫婦がAIDで授かった子供の出生届を提出した際も、自治体は親子として扱っている。ところが今回のケースでは、戸籍に性別変更の事実が記載されていたため、新宿区は「次男はAIDによる子供であって嫡出子ではない」とした。
 会社員側は、妻とは法律にのっとった結婚をしており、次男と血縁がなくても「妻が婚姻中に妊娠した子供は夫の子と推定する」との民法772条の規定を適用すべきだと主張。さらに不妊の男性とAIDによる子が親子と認められているのに、それと異なる扱いをされるのは性別などによる差別を禁じた憲法14条1項に違反するとしている。
 会社員は今回の提訴に踏み切る前に、すでに長男との関係をめぐって新宿区と争っている。昨年1月、長男を嫡出子として出生届を新宿区に提出した際、区は次男のときと同様に戸籍の父親欄を空白にした。
 会社員と妻は昨年3月、父親を明記するよう戸籍の訂正許可を求めて東京家裁に審判を申し立てたが、家裁は昨年10月、「区の対応は性同一性障害で男性となった夫に生殖能力がないという客観的事実に基づいており、差別ではない」と申し立てを却下。東京高裁も棄却し、現在は最高裁で争われている。
 そして今回、会社員は親子関係の訴訟を起こすに当たり、被告を次男とした。長男と同様の申し立てを起こしても退けられる可能性があるためで、裁判所に親子関係を直接判断してもらうのが狙いだ。
 立命館大二宮周平教授(家族法)は「裁判所は血縁関係にこだわるのではなく、共同生活の実態に照らして親子と認めるべきだ」と話す。
 提訴後に会見した会社員は自らを「僕」と名乗った上で、こう語った。
 「次男は誰がパパ、ママかを認識しています。ハイハイで満面の笑みを浮かべて寄ってきます。僕がこの子の父親でなければ、どんな人が父親ですか」


[産業経済新聞社 2013年6月3日(月)]