http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131211-OYT1T00919.htm
性別変更した夫と人工授精の子は「親子」最高裁
性同一性障害で女性から性別変更した兵庫県内の男性(31)とその妻(31)が、第三者の精子を使った人工授精で誕生した長男(4)を法律上の実子(嫡出子)と認めるよう求めた審判の抗告審で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は10日の決定で、実子と認める初判断を示した。
一般の夫婦と同様に、「妻が婚姻中に妊娠すれば夫の実子と推定する」という民法772条の規定が適用されるとした。
夫に生殖能力がなくても親子関係を認める初の判断で、生殖医療が急速に進歩する中、家族のあり方について議論を呼びそうだ。
裁判官5人のうち3人の多数意見。裁判官出身の大谷裁判長と学者出身の岡部喜代子裁判官は「男性に生殖能力がないことは明らかで、父子関係は認められない」と反対意見を述べた。
(2013年12月11日19時55分 読売新聞)
http://www.asahi.com/articles/TKY201312110293.html
朝日
性別変更の元女性と、精子提供の子は父子 最高裁初判断
2013年12月11日20時00分
【田村剛】心と体の性が一致しない「性同一性障害」(GID)で性別を女性から変更した男性について、最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長)は、第三者から提供された精子で妻との間にもうけた血縁関係のない子を、法律上の子と初めて認めた。一般の夫婦と同じく「妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する」という民法772条が適用されると判断した。10日付。
最高裁決定の要旨
GIDの当事者は、非配偶者間人工授精(AID)で子をもうけても、法務省は「血縁がないのは明らか」として、「嫡出(ちゃくしゅつ)子」(結婚している夫婦の子)として認めてこなかった。
他方、生まれながらの男女の夫婦が不妊治療でAID子をもうけた場合は、実務上、嫡出子として受理されている実態があり、差異が問題になっていた。
最高裁は今回、血縁関係がないことが明白な男性と子を戸籍上の「親子」と認定。従来の「血縁重視」の考えにとらわれず、「生まれながらの男性と同じように『父親』として認めてほしい」との裁判当事者の訴えに応えた形だ。
AID子をめぐっては、だれを父にするかを定めた法律がなく、国会の議論も立ち遅れていた。今回の決定を機に、法務省は対応の見直しを迫られる。
http://www.asahi.com/articles/TKY201312110450.html
朝日
最高裁決定の要旨
2013年12月11日20時29分
性同一性障害で女性から性別変更した男性とその妻が、第三者から精子提供を受けてもうけた子について、「夫の子」と認めた最高裁決定の要旨は次の通り。
性別変更の元女性と、精子提供の子は父子 最高裁初判断
●多数意見
性同一性障害特例法4条は、「性別変更の審判を受けた者は、民法その他の法令の規定の適用について、法律に特段の定めがある場合を除き、他の性別に変わったものとみなす」旨を定めている。
従って、特例法3条1項の規定に基づき、男性への性別変更の審判を受けた者は、以後、法令の規定の適用について男性と見なされるため、民法の規定に基づき夫として婚姻することができるのみならず、婚姻中に妻が子を懐胎したときは、民法772条の規定により、当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。
もっとも、772条2項所定の期間内(婚姻成立から200日経過後、または婚姻解消から300日以内)に妻が出産した子について、妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、または遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係をもつ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合は、その子は実質的には772条の推定を受けないことは、これまでの最高裁判例の通りである。
だが、性別変更の審判を受けた者については、妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないが、一方、そのような者に婚姻することを認めながら、他方で、婚姻の主要な効果である772条による嫡出(ちゃくしゅつ)の推定についての規定の適用を、妻との性的関係の結果もうけた子でありえないことを理由に認めないのは相当ではない。
そうすると、妻が夫との婚姻中に懐胎した子につき嫡出子であるとの出生届が出された場合、戸籍事務管掌者が、戸籍の記載から夫が性別変更の審判を受けた者であり、当該夫と当該子との間の血縁関係が存在しないことが明らかであるとして、当該子が民法772条による嫡出の推定を受けないと判断し、それを理由に父の欄を空欄とするなどの戸籍の記載をすることは法律上許されない。
これを本件についてみると、A(長男)は、妻が婚姻中に懐胎した子であるから、夫が性別変更の審判を受けた者であるとしても、民法772条の規定により夫の子と推定される。
また、Aが実質的に同条の推定を受けない事情、すなわち夫婦の実態が失われていたことが明らかといった事情もうかがわれない。
従って、Aについて民法772条の規定に従い嫡出子としての戸籍の届け出をすることは認められるべきで、Aが同条による嫡出の推定を受けないことを理由とする本件戸籍記載は法律上許されない。戸籍の訂正を許可すべきである。
寺田逸郎(裁判官出身)、大橋正春(弁護士出身)、木内道祥(同)の各裁判官の多数意見。岡部喜代子(学者出身)、大谷剛彦(裁判官出身)の両裁判官は多数意見に反対した。
産経
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131211/trl13121118170003-n1.htm
性別変更「父」と認める 同一性障害めぐり初判断 血縁なくても親子関係 最高裁、戸籍を訂正
2013.12.11 18:14 [性]
性同一性障害で女性から男性に性別を変更した夫とその妻が、第三者との人工授精でもうけた子どもを嫡出子として戸籍に記載するよう求めた裁判の決定で、最高裁第3小法廷は11日までに「血のつながりがないことが明らかでも夫の子と推定できる」として法律上の父子関係を認める初判断を示した。決定は10日付。裁判官5人中3人の多数意見で決まり、2人は反対を表明した。
決定によると夫(31)と妻(31)は、東京都新宿区役所に長男(4)の出生届を提出したが、戸籍で嫡出子として扱われなかったため家事審判を申し立てた。一、二審は夫婦の申し立てを退けたが、最高裁決定で戸籍は訂正され、空白だった「父」の欄に夫の名が記載される。最高裁の判断は、家族の多様化や生殖補助医療をめぐる議論にも影響を与えそうだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131211-00000092-mai-soci
<性同一性障害>性別変更の男性は「父」 最高裁初判断
毎日新聞 12月11日(水)21時40分配信
性同一性障害のため女性から男性に性別を変更した夫(31)とその妻(31)が、第三者提供の精子によって生まれた長男(4)を嫡出子(法律上の夫婦の間に生まれた子)と認めるよう求めた裁判で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は、申し立てを退けた1、2審の判断を覆し、父子関係を認める決定を出した。小法廷は「妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定するとした民法の規定が適用される」との初判断を示した。決定は10日付。
夫は、性同一性障害特例法に基づき性別変更して2008年4月に結婚。09年11月に人工授精で妻が長男を出産、本籍地の東京都新宿区に出生届を出した。だが、夫の性別変更を理由に嫡出子として扱われず、戸籍の父の欄は空白とされた。
夫婦は戸籍の訂正を求めて東京家裁に家事審判を申し立てたが、家裁は「男性としての生殖機能がないことは明らかで、嫡出子とは推定できない」と退け、東京高裁も支持した。夫婦側はこれを不服として最高裁に特別抗告していた。
小法廷は、特例法に基づいて性別変更した夫について「法令上、男性として扱われ、法律婚ができるだけでなく、婚姻中に妻が妊娠した場合は民法772条の嫡出推定が及ぶ」と指摘。その上で「性別変更を法律で認めながら、性的関係の結果もうけた子でないことを理由に、嫡出推定の適用を認めないのは不当だ」と結論づけた。
最高裁の決定により、戸籍は訂正され、空白だった「父」の欄に夫の名が記載される。
裁判官5人中3人の多数意見。岡部喜代子裁判官と大谷裁判長は反対意見を付けた。岡部裁判官は「嫡出子とは本来、夫婦間の性交渉の結果で生まれた子であり、その機会がないことが明らかな場合は嫡出推定は及ばない」と述べた。【和田武士】
【ことば】嫡出推定
民法772条は妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定し、婚姻成立から200日経過後、もしくは離婚から300日以内に生まれた子は婚姻中に妊娠したと推定すると規定している。前夫以外を親とするためには、調停や裁判で確定する必要があり、前夫と連絡が取れない場合、出生届が受理されず子が無戸籍となる。法務省は2007年5月、離婚後の妊娠に限り、前夫以外を親とする出生届を認める通達を出した。
NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131211/t10013753581000.html
性別変更の夫婦の子で初判断
12月11日 17時54分 K10037535811_1312111935_1312111958.mp4
第三者から精子の提供を受けて産まれた子どもについて、「性同一性障害」で戸籍の性別を変えた夫が自分の子と認めるよう訴えたのに対し、最高裁判所は「血縁関係がなくても父親と認めるべきだ」という初めての判断を示して訴えを認める決定を出しました。
家族の形が多様化するなかで、決定は生殖補助医療を巡る国の法整備の議論にも影響を与えそうです。
兵庫県の31歳の男性は、女性として生まれましたが、心と体の性が一致しない「性同一性障害」と診断され、5年前に戸籍の性別を男性に変えました。
その後結婚し、妻が第三者から精子の提供を受けて長男を産みましたが、法律上の子どもである「嫡出子」と認められなかったため、裁判所に訴えていました。
最高裁判所第3小法廷の大谷剛彦裁判長は、「現在は性別を変えることができるようになったうえ、性別変更後に結婚することも認められている。結婚できる以上、血縁関係がなくても子どもの父親と認めるべきだ」という初めての判断を示し、「嫡出子」と認める決定を出しました。
一方で、5人の裁判官のうち2人は、「制度上は結婚できても遺伝的には子どもを作ることができず父親と認めることはできない」などとする反対意見を述べています。
「性同一性障害」の夫婦の子どもについては、法務省の見解に従ってこれまで「嫡出子」と認められてきませんでしたが、決定によって国は今後、対応の見直しを求められることになります。
また、生殖補助医療の技術が進み家族の形が多様化するなかで、人工授精などについて、法律の整備を求める意見は国の審議会でも上がっており、最高裁の決定は今後の国の議論にも影響を与えそうです。
裁判官も意見別れる
今回の決定には5人の裁判官のうち2人が反対していて、最高裁の裁判官の中でも「結婚しているかどうか」と「血縁関係」のどちらをより重視するかで意見が分かれる結果となりました。
このうち嫡出子と認める立場の寺田逸郎裁判官は、「結婚制度は夫婦の関係を認めただけでなく子どもを嫡出子と認めることと強く結びついている。性別を変更して結婚を認めた以上は、血縁がなくても嫡出子とする可能性を排除していない」と述べています。
これに対して反対意見を述べた岡部喜代子裁判官は、「嫡出子とは本来、夫婦の間にできた子どものことだ。制度上は結婚できても遺伝的に子どもを作ることができなければ父親と認めることはできない」と述べ、血縁関係を重視するべきだという考えを示しました。
また大谷剛彦裁判官は、「親子関係をどういった場合に認めるかは、本来、立法によって解決されるべきだ」と指摘し、国に法律の整備を求める意見を述べています。
家族に対する法整備を急ぐべき
最高裁の決定について、家族に関する法律に詳しい早稲田大学大学院法務研究科の榊原富士子教授は、「生殖補助医療の進歩で家族の形が多様化しているのに法律の整備が追いついていない。国は家族に対する法律の整備に慎重になっているが、法整備を急ぐべきだ。今回の決定はその後押しになるのではないか」と話しています。
現状と今後の対応は
「性同一性障害」を巡っては、9年前から性別の変更や結婚ができるようになりましたが、子どもについてはこれまで法的な夫婦の子である「嫡出子」とは認められてきませんでした。
心と体の性が一致しない「性同一性障害」の人については新たに法律が整備され、平成16年から性別を変更できるようになり、この結果、結婚もできるようになりました。
最高裁によりますと、平成16年から去年までに「性同一性障害」のために性別を変更した人は合わせて3500人余りに上っています。
また、法務省によりますと、性別変更した男性と結婚した妻が産んだ子どもの出生届はこれまでに39件出されているということです。
しかし、戸籍には性別を変更したことが記録されているため「夫との間に血縁関係がないことは明らかだ」とする法務省の見解に従って、これまで「嫡出子」とは認められてきませんでした。
今回、訴えを起こした男性の場合も父親とは認められず、これまで戸籍上、子どもの父親の欄は空欄になっています。
また、3年前には当時の法務大臣がこうしたケースを「嫡出子」と認めるかどうか検討する考えを示しましたが議論は進みませんでした。
しかし、今回、最高裁が男性を父親と認め「嫡出子」としたことで、国は今後、対応の見直しを求められることになります。