性別変更の要件緩和 超党派の議連が検討開始

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朝日
性別変更の要件緩和 超党派の議連が検討開始

二階堂友紀

2016年1月28日07時28分

 心と体の性が一致しない性同一性障害の人が、戸籍上の性別を変更できる「性同一性障害特例法」の改正に向けて、超党派の国会議員連盟が27日、議論を始めた。要件が厳しいために変更できず、就職差別など日常生活で支障をきたしている当事者などから、緩和を求める声が出ていた。

 性的少数者に関する課題を考える議連が同日、立法検討ワーキングチームの発足を決めた。会長の馳浩文部科学相は記者団に「(今国会中に)中間報告は出せるのではないか」と述べ、早期の取りまとめをめざす考えを示した。

 司法統計によると、2004年の施行から14年までに同法に基づき性別を変更した人は5166人で、増加傾向にある。だが、日本精神神経学会の調査では性別への違和感を訴えて受診した人のうち、性別変更した人は2割にとどまる。

 今回の焦点の一つが、未成年の子がいないことを求める「子なし要件」だ。

 千葉県内のAさん(46)は心は女性。幼いころから男性の体に強い違和感があったが、「結婚して子どもができれば『治る』のではないか」との思いから20代で結婚、2人の子どもも授かった。しかし、苦痛は増すばかりで離婚。手術を受け女性として暮らしているが、別居する長女が15歳なので戸籍は変更できない。

 仕事は女性の外見と性別の不一致で差別を受けることを恐れ、パート勤務を選ぶ。健康診断など、性別が分かりそうになると離職を繰り返す不安定な生活で、長女を引き取る約束も果たせない。もともと子どもが混乱するとして設けられた要件だが、「子どものためというなら、なおさらなくしてほしい」と訴える。

 もう一つの焦点が、子宮や卵巣、精巣の摘出などを求める「手術要件」だ。性別への違和感を訴える人が、すべて性別適合手術を望むわけではないからだ。

 都内のBさん(36)は心は男性だが戸籍上は女性。大学時代は手術を望んでいたが、20代後半で「社会で安定して生きるための手段として手術を求めていた」と気づいた。今は手術やホルモン治療は受けず、男性らしい髪形や服装で男性として暮らしている。

 一方で、就職や結婚のために戸籍を変更しようと、やむなく手術を受ける人も少なくない。米国の一部の州や英国、スペインなどではすでに、性別変更に手術は不要だ。同障害に詳しい針間克己医師は「日本でも一刻も早く『手術要件』を外すべきだ」と指摘する。

 手術要件を巡っては14年、世界保健機関(WHO)などが廃絶を求める共同声明を発表しており、国際社会からの批判もある。ただ、海外では男性に性別変更した人が妊娠するといったケースも起きており、民法などとの整合性も議論になりそうだ。

 議連ではまた、性的少数者などへの差別解消を推進する法案も検討する。(二階堂友紀)

 性同一性障害特例法 同障害の人が20歳以上▽結婚していない▽未成年の子どもがいない▽生殖腺がないか、生殖機能を欠いている▽変更したい性別の性器に近い外観を備えている――の要件を満たせば、家裁の審判を経て戸籍上の性別を変更できることを定めた。