性同一性障害:2度の性別変更申請 特例法、高いハードル

性同一性障害:2度の性別変更申請 特例法、高いハードル
毎日新聞 2015年05月20日 大阪夕刊

 心と体の性が一致しない性同一性障害GID)と診断され、性別適合手術を受けて男性から性別変更した大阪府内の自営業の50代女性が、戸籍の性を再び男性に戻したいと、戸籍法に基づく戸籍の訂正を大阪家裁に申し立てたことが分かった。性別変更するためのGID特例法は、性別適合手術を受けることを条件に定めているが、女性は「心は男性で戸籍の性が間違い」と手術なしでの変更を求めている。【高瀬浩平】

 欧州などでは人権上の観点から手術なしでも変更を認められる国もあり、専門家からは制度の見直しの必要性を指摘する声も出ている。

 18日付の申立書などによると、男性として生まれたが、子どもの頃から女装に興味があるなど自身の性に違和感を持っていたという。女性と結婚したが離婚。その後、男性でいることが嫌になり、40代の時に自殺を図った。2003年に受診し、性同一性障害と診断された。

 06年に性別適合手術を受け、GID特例法に基づく家裁の決定で翌年、戸籍上の性別を女性に変更した。09年には、女性として男性と結婚した。

 しかし、半年で離婚。自らの意思で女性になったのに「やはり自分は男性ではないのか」との気持ちが消えず、昨年10月、別の医師に「心の性別は男性」と診断された。今は子どもがいる女性と交際中で、戸籍が男性に戻れば結婚したいという。

 特例法では、GIDの人が戸籍の性別を変更するには▽生殖不能な状態▽外性器がその性に似た形−−などが条件。この女性の場合、06年の手術で既に生殖機能はないが、再び手術をして外性器を男性に近づける必要がある。だが、手術には数百万円かかり、体への負担も大きい。そこで「本当は男性なのに女性となっている戸籍に誤りがある」として、戸籍法の「錯誤」に当たると主張して訂正を求めることにした。

 女性は「法律上も男性になり、交際中の女性の子どもの父親になりたい」と話している。

 GID学会前理事長の大島俊之弁護士は「性同一性障害の人たちの中には性別間を揺れ動く人もいるのに、特例法は戸籍の性を戻すハードルが高過ぎる。欧州などでは生殖機能を失わせるのは人権侵害に当たるとの考えから、手術を性別変更の条件にしない国も増えつつある。国内でも見直しを議論してもよいのではないか」と指摘する。

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 ■ことば

 ◇GID特例法

 性同一性障害の人が戸籍の性別を変更するための法律。2003年に議員立法で成立、04年に施行された。2人以上の医師にGIDと診断された20歳以上の人が、性別適合手術を受けた▽現在は結婚していない▽現在は未成年の子どもがいない−−などの条件を満たせば、家庭裁判所の審判で性別変更が認められる。08年に改正され、「子どもがいない」との条件が「未成年の子どもがいない」に緩和された。