ICD11では性別不合は、精神科診療は保険適用外?

谷合先生等の情報では、厚労省見解としては、「gender incongruenceは性同一性障害の継承概念」とのことのようで。まあ常識的にもそうだとは思うが。


ただ、基本的なコードは、gender inconguruenceは「Mental, behavioural or neurodevelopmental disorders 」から外れるのは大きな違い。


ICD10では、性同一性障害(性転換症)はMental, behavioural or neurodevelopmental disorders にふくまれていたため、精神疾患に含まれ、保険における精神医療(通院精神療法等)の対象に含まれた。
しかし、ICD11では、含まれないため、厳密には精神医療は保険でカバーされなくなる。


となると、たとえ、ホルモンが今後、保険診療となっても、その前の精神科診療が、保険でないため、やはり混合診療となって、ホルモン、手術が自費、という理屈も成り立つ。
精神科診療を飛ばした場合には、ガイドラインに従ってないため、やはり保険対象外となる。


まあ、実際には、精神科診療を自費で行うなど言う事態は起きないとは思うが、純理論的には、問題が起こりうる可能性あり。


これまで、保険化陳情の人たちはこの問題を厚労省と議論したのだろうか?

ICD11

もうすぐだとは思うが。
draftをもう少し俯瞰的に見る。

https://icd.who.int/dev11/l-m/en#/http%3a%2f%2fid.who.int%2ficd%2fentity%2f334423054

17 Conditions related to sexual health
は、1から16までが「disease」「disorder」がならび、
次の18が18 Pregnancy, childbirth or the puerperium (妊娠、出産、産後)なので、
並び的にも妊娠レベルの扱いで、脱病理化は明らか。


17の下位項目には
Sexual dysfunctions

Sexual pain disorders

HA40 Aetiological considerations in sexual dysfunctions and sexual pain disorders

Gender incongruence

Changes in female genital anatomy

Changes in male genital anatomy

Paraphilic disorders

5A71 Adrenogenital disorders

Predominantly sexually transmitted infections

QA21 Contact with health services for contraceptive management

HA8Y Other specified conditions related to sexual health

HA8Z Conditions related to sexual health, unspecified

が並ぶ。
日本精神神経学会のリストと少し違うが、精神医学と関係ないのはよその学会が、翻訳担当のため。


Paraphilic disorders

5A71 Adrenogenital disorders

Predominantly sexually transmitted infections

は、メインの所属場所は異なる。

これは、メインに属する場合と、二次的に?属する場合があるからのようだ。


で調べてみたら、

06 Mental, behavioural or neurodevelopmental disorders
に、
Gender incongruence もはいっていた。

わかりにくいし、私も正確にはまだよく知らないが、
主たる所属先は17 Conditions related to sexual health だが、
06 Mental, behavioural or neurodevelopmental disordersにも、関係する、といったことか。


そうい意味では完全には脱精神病理化とも言いにくい玉虫色のところもあり。
終結果がどうなるか。
要注目。

疾患近縁概念としての「LGBT」

医師会等の講演会や大学同窓会など、セクシュアリティ関係の専門ではない医者から、何度かこんな感じのことを言われたことがある。
「最近では、性同一性障害の代わりにLBGなんとか、というそうですね」(よく知ってるだろうとちょっと自慢気)。


また、取材を受ける時など、新聞記者はほぼ大丈夫だが、ネット記事なんかのライターさんだと、
医療機関LGBTをみる時、気を付けるべきこと」なんかのテーマだと、
性同一性障害の拡大概念として、LGBTをとらえていることがよくある。
つまり、「疾患じゃないかもしれないけど、疾患に近いLGBT医療機関が見るときは、こういった症状を見落とさないようにしましょう」といった趣旨で記事を書きたいとの取材となる。
そうではなく「医療機関においては、人種や宗教等と同じく、性的指向性自認を尊重、配慮することが大事」ということを理解してもらうには一苦労する。


このあたりから推測するに、一般的には、
LGBTを正確に理解しているのはごく一部
・ある程度知っている人は、性同一性障害の拡張、類似概念としてLGBTを理解している。
・残りの人は何も知らない
という感じなのかもしれない。


勉強不足だ!と罵倒するのは、簡単だが、まあ無理もないかとも思う。「LGBT性同一性障害など)」という使われ方はよくされるし、専門家でもない限り、いちいち新しいアルファベットの略語を正確に理解するのは困難だ。


啓発活動される方は、大変だとは思うができるだけ平易な日本語でしていただけたらと思う。
でないといずれ「ソジ外来」(ただし、実際に見るのは性同一性障害)とか始まりかねない。

雑感

まあいろいろ思うこともあるが、気楽に感想をのべる立場でもないと思うので、現実的な話を。


ホルモン開始前に保険適用のため乳房切除術をというケースは増えそう。
ただ、行列が伸びて数年待ちという場合に、毎月の生理に耐えながらホルモンを始めずに順番待ちをするというのはかなり厳しい。
胸だけいや、というFTX的な人が並ぶ、ということになるかも。


あとMTFでも、20歳くらいでノンホルでもパスしていて、SRS希望というケースもあるかも。
ただ、これも数年順番待ちしている間に、男性化が進み、パスが困難になる、ということも。


また、MTFでは、個人輸入ホルモン剤を服用していれば、自由診療には当たらない。
ただガイドライン上は、医師の管理下でホルモン療法をすることが望ましく、認定医はガイドライン順守を求められるだろうから、ややこしい状況になる。

性別と生きづらさ。

さらに考えたが。


性別と生きづらさには4パターンあるのでは。


1.今の性別だと生きやすく、反対の性別だと生きづらい人
2.今の性別だと生きづらく、反対の性別だと生きやすい人。
3.今の性別でも反対の性別でも生きていける人。
4.今の性別でも反対の性別でも生きづらい人。


で、一般的には「2」の人たちが、性同一性障害・性別違和の人と診断されると思われている。で、SRSや戸籍変更が望ましいと考えられる人たち。


だが、「4」の人たちにも、性同一性障害・性別違和の人はいる。しかし、SRSや戸籍変更しても生きづらいことは続く。
つまり、診断が正確だとしても、SRSの適応があるとの判断が不適切だと、戸籍変更後に後悔しうる。


逆に「3」のパターンの人は、性同一性障害・性別違和の診断が怪しくても、性別変更してもたくましく生きていく。活動的なバイジェンダートランスジェンダーにときどきいる感じがする。


すなわち戸籍変更の後悔は必ずしも診断だけの問題ではないのではないか。

「トランスジェンダーの心理学」での、ジェンダー・アイデンティティと性指向

一人で妄想的に考察しても仕方ないので、データを見ることにした。
トランスジェンダーの心理学」にデータがある。
P122,表22によれば、
トランス女性の、性指向別、ジェンダーアイデンティティ得点値は、
女性指向 57.80
両性指向 65.84
男性指向 76.92
で、やはり男性指向のもののほうは得点が高い。


いっぽう、トランス男性では
女性指向 77.46.
両性指向 78.17
男性指向 81.80
と関係はない。
男性指向のものは数が256名中5名なので、統計的にはそもそも無理があるが。
著者は考察しているが、あまりうまく説明できていない。


ただ、ほかのページも見ていて、ある事に気が付いた。
このトランス男性群は、別の時の研究より、点数がそもそも高い。
p96やp100の研究より高いのだ。
P100には、治療別の点数が載っている。
ここでは未治療群より、治療群のほうが点が高い。

p122のトランス男性の点数は、治療群並みである。


どうしてこういう点の違いが出ているかは考察されていないが。
おそらく対象の差だ。
p100の対象は、精神科での調査
p122は、精神科と産婦人科で調査。
p122はおそらく産婦人科が多いのであろう。

精神科には、性別違和を訴えても、その違和の強弱はさまざまである。そのため点数の低いものもいる。
一方婦人科に行くものは、ホルモン注射をしにいくか、ホルモン注射に備えて、身体検査に行くものである。いわば中核群である。


よって調査の医療機関の違いが点数の差に反映される。


だからp122の調査では、多様な対象とはなりえず、男性への性指向のトランス男性も強固なアイデンティティを持つのだろう。


ジェンダー・アイデンティが強固でなく、治療も行わない群のなかの、性指向のデータがほしいところだ。