「女性トイレ禁止は差別」提訴へ 性同一性障害の公務員

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「女性トイレ禁止は差別」提訴へ 性同一性障害の公務員
朝日新聞
二階堂友紀
2015年11月2日16時57分


 心は女性である性同一性障害の職員は、戸籍上の性別が男性である限り、女性トイレを使ってはならない――。経済産業省がこんな原則を示し、使いたければ異動ごとに職場で同障害を公表するよう求めていた。この職員は近く「人格権の侵害で、同障害を理由にした差別だ」として、東京地裁行政訴訟と国家賠償訴訟を起こす。


 弁護団によると、性的少数者が職場での処遇の改善を求める訴訟は初めて。
 この職員は40代で、戸籍上は男性だが心は女性。入省後の1998年ごろ同障害の診断を受け、2009年に女性としての処遇を申し出た。診断から11年かかったのは、ホルモン治療や女性の容姿に近づけるための手術を重ね、「女性として社会適応できる」と思えるまで待ったからだ。11年には名前も女性的なものに変更。今では初対面の人にも女性として認識され、職場の女子会に呼ばれる。
 経産省は、女性の服装や休憩室の使用は認めたものの、女性トイレの使用は原則として許可しなかった。この職員が情報公開請求して開示された資料によると、女性トイレの使用を認めない理由について、経産省は?労働安全衛生法の省令で男女別のトイレ設置が定められている?女性職員の了解が不可欠だが、2人から「抵抗感がある」との声があがった――などと説明。戸籍上の性別を女性に変えない限り、障害者トイレを使ってもらい、女性トイレを望む場合は異動ごとに同障害を公表して同僚の理解を得るよう求める原則を確認した、としている。
 日本で性別変更するには卵巣や子宮、睾丸(こうがん)を摘出するといった性別適合手術が必要だが、この職員は皮膚疾患などで手術が受けられなくなった。職員側の主張では、上司から13年1月に「手術を受けないなら男に戻ってはどうか」などと言われた。同障害の公表を避けるため、異動希望を出せなくなった。うつ病となり、同年2月から1年以上休職した。
 人事院に処遇の改善を求めたが認められず、訴訟に踏み切る。この職員は、障害者トイレが工事中だった際に暫定的に認められた「2階以上離れた女性トイレ」を現在も使うが、「他の女性職員と平等に扱ってほしい」と訴える。経産省は「職員のプライバシーに関する問題については答えられない」としている。同障害の人への処遇に関する国の統一的な指針はなく、各省庁や企業に委ねられている。公的機関では、同障害の上川あや・東京都世田谷区議が03年に初当選した当初、戸籍上は男性だったが女性トイレの使用を認められた例がある。
■性別変更、なお高い壁
 日本での性別変更は04年の性同一性障害特例法で可能になったが、手術が必要などハードルが高い。日本精神神経学会が国内20医療機関の実績を調べたところ、12年末までに性別への違和感を訴えて受診した人は1万5105人いた。このうち、手術を受けて戸籍上の性別を変更したのは2割だった。
 世界では心の性に基づく自己決定権を重んじる考え方が広がる。世界保健機関(WHO)などは昨年、生殖機能の喪失を強いるのは人権侵害だとして、廃絶を求める共同声明を出した。米の一部の州、英、アルゼンチン、デンマーク、台湾などでは手術は不要だ。
 日本でも手術要件をなくすよう求める声があるが、本格的な法改正の議論には至っていない。大阪府立大の東優子教授(性科学)は「日本の今の要件は基本的人権を侵害している。新たな生きづらさを生んでおり、法改正が必要だ。日本では戸籍上の性別を変更できない人が少なくないという現状を理解し、当事者のニーズに基づく柔軟な対応がなされるべきだ」と話す。(二階堂友紀)
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 〈性同一性障害〉 体の性と自分が認識する心の性が一致せず、持続的に苦悩がある状態。日本で性別変更するには、①20歳以上②結婚していない③未成年の子どもがいない④生殖機能がない、などが要件。④を満たすためには性別適合手術が必要で、心身面や金銭面の負担も大きい。



追記 
記事中「台湾」は誤りと、後日訂正記事。