日本語訳で本質的かつ致命的な問題の箇所として、450ページの
「性転換の広がりの全領域にいる人達によって、定型的でない性別の表出を開放する動きが増えているので」
がある。
日本語ではさっぱり意味がわからなかった。
英語を読むと「性転換の広がり」は「transgender spectrum」だった。
確かに訳しにくいが、例によってtransgenderは最初の443pにしっかり「トランスジェンダー」として定義付きで説明されている。
それなのに、ここでは性転換と別の訳に。
まなんでもかんでも「性転換」と訳す、いつものパターンだが。
spectrumもDSM5では「自閉スペクトラム症」「統合失調スペクトラム障害」と、あちこち出てくる言葉なのでそのまま「スペクトラム」でよい。
そもそも、トランスジェンダーとスペクトラムは相性が良い言葉であり、お互いに色の多様性を示している。
いっぽう、性転換は男と女の2色の世界でスペクトラムとは相いれない。
訳者はその本質がわかっていない。
「性転換の広がりの全領域にいる人達によって、定型的でない性別の表出を開放する動きが増えているので」
の意味だが「開放」は「openness」の訳語であり、「隠し立てしない」といった意味で、
「トランスジェンダー・スペクトラムの全領域にいる人達によって、定型的でない性別の表出を率直に行うことが増えているので」
という意味になる。