松浦大悟議員参議院予算委員会で、性同一性障害の嫡出子問題について質問

183 - 参 - 予算委員会 - 2号
平成25年02月18日
http://kokkai.ndl.go.jp/cgi-bin/KENSAKU/swk_dispdoc.cgi?SESSION=3415&SAVED_RID=2&PAGE=0&POS=0&TOTAL=0&SRV_ID=10&DOC_ID=412&DPAGE=1&DTOTAL=21&DPOS=1&SORT_DIR=1&SORT_TYPE=0&MODE=1&DMY=3940
松浦大悟君 
 それでは、次に、質問に移りたいと思います。
 こちらの写真を御覧ください。イクメンという言葉がありますけれども、若いパパが子供たちをお風呂に入れている写真です。この写真を撮っているのは奥さんです。どこにでもある幸せそうな家族写真ですが、実は今、この前田さん御一家は大変困難な状況の中にあります。
 実は、前田良さん三十歳は、性同一性障害の方で、心と体の性が一致せず、女性から男性へと性別変更された方なんです。性別適合手術を経て、平成二十年に性同一性障害特例法に基づき性別が男性へと変更されました。その後、奥さんの亜季さんと結婚をされて、非配偶者間の人工授精でお子さんをもうけられました。お子さんが生まれた翌日に兵庫県宍粟市に出生届を出そうとしたんですが、市役所の係の方から、この子を前田さんの嫡出子として受理することはできないと言われたそうです。その後、前田さんは大阪市や新宿区に引っ越すんですが、どこの役所でも同じように認められなかった。認められない理由というのが、遺伝的な父子関係がないのは明らかだからということなんですが、ただ、非配偶者間人工授精で生まれたお子さんは皆さん遺伝的つながりないということは明らかなわけで、この場合だけなぜ受理しないのか、矛盾しているのではないかと思います。
 前田さんは裁判に訴えたんですが、家裁では却下をされ、東京高裁では即時抗告を棄却、今、最高裁に特別抗告をしております。実は、こうしたケース、大変増えておりまして、今月も中部地方性同一性障害の御夫婦が裁判に訴えることになり記者会見を開いております。それから、前田さんも、八か月になる次男についてもこれを嫡出子として認めるようにと新たに裁判を行う予定です。
 性同一性障害で性別変更された方は全国で三千人ぐらいだと言われておりますけれども、その中で、人工授精によって出産された方が二十七人いらっしゃいます。こうしたことについて、立法府として何とかしなければならないというふうに思うんですが、谷垣法務大臣、こうした事態について把握はされていらっしゃるでしょうか。
国務大臣谷垣禎一君) 今、松浦さんがおっしゃった最高裁に行っている事例、事案でございますが、私どもも、最高裁がどういう判断を下すかということは、これは非常に注目して見ております。
 それで、今おっしゃった、なぜこういう問題が起こってくるかということでありますが、民法七百七十二条、これは、妻が婚姻中に懐胎した子は嫡出子と推定されると。しかし、これは嫡出子と推定しますが、妻が夫以外の第三者から精子の提供を受けた場合には、本来は推定は及ばないわけです。ところが、実際に窓口で、戸籍の係の窓口へ来て、自分の子であると、こう言われると、なかなか、直ちにそれは、あなた、違う方からの精子で生まれた子供じゃないですかとはできないわけですね。なかなか分からない。だから、現実にはそれが受理されてしまっているという状況でございます。
 他方、今おっしゃった、夫婦の一方が性同一性障害者であって性別取扱変更の審判を受けた方である場合には、その戸籍の窓口で、子供が第三者からの精子提供を受けて生まれた子供であるということが、つまり推定を破る場合であるということが明確になってしまうんで受け付けることができないという取扱いになっております。つまり、民法の嫡出推定規定の構造というか解釈からそういう問題が出てきているわけでありまして、必ずしもこれが、何というんでしょうか、不合理な差別と言えるのかどうか非常に、わけではないと思っております。ただ、最高裁がどういう判断を下すか、私どもも注目をしております。
松浦大悟君 テレビを御覧の方に分かりやすいように、それでは、ちょっとパネルを替えていただけますでしょうか。
 こちらのパネルを御覧いただきたいと思います。非配偶者間人工授精でDNAのつながりがないことが分かっているのに、生来的な男女の場合は、これ何も指摘されることがなく受理をされると。一方、性別変更をして男性になっているにもかかわらず、性同一性障害の方の場合は受理されないという、こういうことになっているわけです。これはおかしいのではないかという問題提起なんですね。
 このような不均等な扱いというのは、性同一性障害特例法、これは性別の変更により他の性別に変わったものとみなすと書かれているわけで、みなされていないのではないか、特例法に反しているのではないかというふうに思いますが、大臣、いかがでしょうか。
国務大臣谷垣禎一君) 結局、嫡出子というのは何であるのかということに来るのだろうと私は思うんですね。それで、確かに民法ができたときには今のような事例が余り想定されていなかったものですから、要するに法的に正式に婚姻をしている、本来、本来と言うと言葉はおかしいですが、男女から生まれた子が嫡出子であると。だから、それは通常婚姻中の女子から生まれた子供には推定をしようと。だけど、推定が破られる場合はそれは嫡出子として受け入れないと、そういう形でこの法律が私は作られているんだろうと思います。
 そうしますと、問題は結局嫡出子というのは何だろうかというような議論で、実はこういった問題は、必ずしも性同一性障害の場合だけではなくて、よその方から精子をいただいて子供が生まれたような場合をどういうふうにしていくかというのは実は相当過去議論を重ねてきた経緯もございますが、これは突き詰めてまいりますと、親子関係とは何かというような、倫理上といいますか、あるいは哲学上と言うべきかもしれません、そういった問題に行き着いて、今までの議論はなかなか結論が出ていなかったというのが実態でございます。
松浦大悟君 非配偶者間の人工授精は過去五十年間にわたって行われておりまして、もう既に一万カップルの間で利用されていると。毎年百人前後の子供たちが生まれているわけですね。遺伝的な父子関係がなくても、市役所の窓口では確認できないため嫡出子として受理をしていると、扱われてきているということがあると思います。
 では、大臣、もしこれが仮に明らかに分かる場合だったらどうなのかという先ほどのお話でございますけれども、例えば政治家の方であったりタレントの方であったり、報道などで大きく非配偶者間人工授精を行ったということが知られてしまった場合に、市役所の担当者が知り得てしまうケースというのもあるだろうというふうに思うんです。この場合はどうなるでしょうか。
国務大臣谷垣禎一君) 私も窓口の実務の取扱いを全部承知しているわけではありません。したがって、ちょっと私も勉強してみなければなりませんが、先ほど申し上げたように、推定するということは、推定を破る場合にはこの規定が適用されないということになるんだと思います。そこを、知る知らないを実務の場合どのように判定しているか、これはちょっと私、役所にまた戻りまして、よく勉強させていただきたいと思います。
松浦大悟君 遺伝的なつながりがないから嫡出子たり得ないというのであれば、遺伝的なつながりがあるケースなら嫡出子として認めるということになるのかということです。
 例えばアメリカでは、女性から男性へと性別変更手術を行う前に自分の卵子を冷凍保存しておいて、婚姻後、第三者精子を使って人工授精をして妻の女性に産ませるというケースが出ております。この場合は、卵子は女性から男性になった夫のものであり、また出産したのは妻ということになるわけですから、法務省の見解には引っかからないと思いますが、いかがでしょうか。
国務大臣谷垣禎一君) これは、先ほど申しましたように、何が嫡出子かというようなことをずっと議論をいたしまして、特に今のような、言ってみれば生殖治療と申しますか、そういった手法をつくったときにどうするのかというのは実は相当議論しているんですが、議論をしてまいりますと、先ほど申し上げたような、親子関係とは何であるのかという非常に深刻な、何というか、見解の対立が今まで浮き上がってまいりました。したがって、まだ結論が出せていないというのが正直なお答えなんです。
 今度の、最高裁がどう判断されるかというようなことも含めて、私どももいろいろ検討いたしたいと思います。
松浦大悟君 稲田朋美大臣が「正論」という雑誌に「「国籍法」改正 私がDNA鑑定に反対する理由」という文章を寄せていらっしゃいます。この中で稲田朋美先生は、親子関係は血のつながりが全てではないとおっしゃっております。日本の歴史と伝統を踏まえ構成されているのが我が国の民法だというふうに思いますので、ここを崩すべきではないと私は思います。
 それで、稲田先生の文章を若干読ませていただきますけれども、母子関係は分娩の事実により一〇〇%明白であるが父子関係はそうではない、単に生物学的な父子関係ではなく法的な父子関係というものを法制度として創設し、それによって守るべき家庭の平和と子供の幸せ、幸福を追求しているのだ、家族は血のつながりが全てではない、夫が妻の産んだ子を自分の子として愛情を持って育てたとすれば、それは生物学的な父子関係に勝るというふうに明確に答えていらっしゃいます。
 安倍総理安倍総理にとって家族とはどのような定義でしょうか。DNAは必要でしょうか。
内閣総理大臣安倍晋三君) ちょうど稲田大臣がその論文を書かれたのは安倍政権のときだったと思いますので、私も記憶をしておりますが、つまり、家族としての一体感、心のつながりときずなを持っていれば、私は、それは当然家族であって、生物的なつながりだけではないと、このように思っております。
○委員長(石井一君) 国務大臣稲田朋美さん。時間外ですから、簡潔にあなたの見解を述べてください。
国務大臣稲田朋美君) 私の論文を引用していただきまして、ありがとうございます。
 私も、親子関係というのは単なる血液関係だけではなくて法的な制度だと考えておりますが、御指摘の問題については、今、谷垣大臣がお答えになったとおりだと思います。
松浦大悟君 ありがとうございました。親子関係にDNAは必要ないという明確な答弁だったと思います。
 それで、先ほど谷垣大臣もおっしゃったように、窓口で、AID、非配偶者間人工授精ということは分からないのでそういう運用になっていると、生来的な男女の場合にですね。そういうことであれば、そもそも性別変更をしたことが分かるということ自体が問題なのではないでしょうか。今戸籍に性別変更したということが記載され続けているということに性同一性障害の方が苦しみ続けているわけです。だから、これ窓口の方が知り得てしまうことになるわけで、この性別を移行したという記述を排除する、削除をすべきではないかというふうに思いますが、いかがでしょうか。
国務大臣谷垣禎一君) その問題は、今の親子の問題と同時に、戸籍というものをどう考えるのかと。やはり戸籍は今いろいろ個人のプライバシーなどもございまして、現在の、何というんでしょうか、例えば婚姻をすれば新しい戸籍を編製する、今の、性転換をすればまた新しい戸籍を編製するということになっております。しかし、この人が新しい戸籍を編製したときに遡っていって、どういう親から生まれた、どういうふうな例えばきょうだい関係があったのかということが最後は分かりませんと、例えばきょうだいで婚姻届を出すというようなこともそのまま受理されてしまうかもしれないというような問題も一方であるのではないかと思います。
 したがいまして、そこら辺りをどう考えていくかということを家族関係全体を考えながらよく検討しなければいけない問題だと私は思います。確かに今のような、性転換をされた方が新しい家族をつくられてどのような幸せを築いていくかという観点も私は極めて大事だと思います。しかし他方、広く家族関係全体を見据えながら、何というんでしょうか、家族の在り方をどう位置付けていくか、幅広い観点から検討しなければこの問題は答えが出ないのではないかと。
 私も、非常に何というか深刻な問題でございますから、今きれいにすぱっと答えを出すだけの自信はございません。ただ、非常に多角的な検討が要るなと思っていることだけは申し上げたいと思います。
松浦大悟君 ありがとうございました。
 性同一性障害の方が性別変更手術をされて、きょうだいで結婚されるというケースはまずないのではないかというふうに思います。
 それで、日本医師会自民党に対して、生殖補助医療について民法に特例を設けるようにという提案をするというニュースが流れておりました。
 第三者精子卵子で生まれた子供の親子関係について、産んだ女性を母とし、実施を依頼した夫を父とするようにということなんですが、これに対して、大臣、自民党の中でもしっかり議論をされていくだろうというふうには思うんですが、是非、法務省の中にも第三者機関のようなものをつくっていただいて、この性同一性障害の問題も含めて検討していただければと思いますが、いかがでしょうか。
国務大臣谷垣禎一君) 先ほど申し上げた、実は前に、法制審議会でこの問題を十分検討するようにという方向が出まして相当議論をしたんですが、結局のところ議論が収れんしないままに終わっているという、つまり、非常にそれだけ解決が難しかったということがございます。よく研究させていただきたいと思います。
松浦大悟君 ありがとうございます。
 中部地方の方のケースでは、生まれてから三年間、嫡出子として戸籍に登録されていたんです。ところが、この前田さんが家裁に裁判を起こしたときに、戸籍の記載が取り消されてしまったということがありました。およそ三年間も嫡出子として扱われていた子供が、ある日突然非嫡出子になってしまったと。
 これは本当にひどいことだったのではないかというふうに思いますけれども、これは、法務省から各役所に通達を出して、こういうケースについては削除するようにということ、お達しがあったのではないかというふうに疑念をお持ちになられている方が多いんですが、その点についてはいかがでしょうか。
国務大臣谷垣禎一君) 私も、先ほど申し上げたように、ちょっと窓口の実務の取扱いまでは十分分かりません。先ほど申し上げたように、要するに推定規定でございますから、推定を破る場合には今のようなことが起こり得るということだけ申し上げておきたいと思います。
松浦大悟君 ありがとうございます。
国務大臣谷垣禎一君) 今、省から聞きますと、今の内容の通達はしていないということでございます。
松浦大悟君 いずれにしましても、戸籍に性別変更した跡が残っているということで、そのことによって窓口の人が知り得てしまう状況にあるということ、しかも性別変更と記載されているわけではないんです。平成十五年法律第百十一号三条と記されているわけで、これは極めてセンシティブに取り扱わなければならない内容だという認識があるからではないかというふうに思います。
 でも、現状でも、この書き方でさえプライバシーに配慮しているということにならないわけですから、逆にこの記載があるために不平等な取扱いを受けてしまうことになっているということは、私はこれは是正すべきではないかというふうに思います。
 去年、秋田市性同一性障害の方が自殺をいたしました。午前四時近く、大通りの下の地下道でガソリンをかぶっての焼身自殺でした。三十八歳でした。悲しいのは、お亡くなりになってからもなお女性として報道されてしまったということです。男性として生きたかったというこの方を支援していた方に話を聞くと、焼身自殺と聞いて私には分かった、ああ、自分の体を消してしまいたかったんだな、性同一性障害への無理解が自殺へと追い込むことがあるんだということをお話しくださいました。性別変更した後もなお別扱いされているという、これは私は公正ではないというふうに感じます。
 前田良さんも実は自殺を考えたことがあるそうです。だけど、こう話してくれました。今まで一人だからどうなってもいいと思っていた、だけど、結婚して子供をつくって、この子たちを育てていかなきゃいけないと思った、この子たちがいてくれるから今の自分がある、僕たちは少人数かもしれないが、同じ人間なんだから同じ扱いを受けたい。
 大臣、是非、第三者機関をつくって検討していただきますよう最後にお願い申し上げます。いかがでしょうか。
国務大臣谷垣禎一君) 今の、自殺をされた方の、心から御冥福をお祈りしたいと思っております。
 それで、法務省でも、人権擁護機関を通じまして、性的指向を理由とする差別をなくそうと、それから性同一性障害を理由とする差別をなくそうという啓発活動、これ年間強調事項として掲げまして、一年を通じていろいろ啓発活動を行っております。去年の十月二十八日には、港区のニッショーホールで、性の多様性を考えるということをテーマとしたシンポジウムを開きまして、三百名ほどの方においでをいただいたわけでございます。
 それからまた、特にそういった非常に苦しんでおられる方がいらっしゃると思いますので、全国の法務局や地方法務局で電話相談、面接や電話による人権相談も受けている実情でございますが、こういう嫌がらせ等があった場合には、人権侵犯事犯ということで調査を行って、その結果を踏まえて適切な措置を図りたいと思っております。
 今後とも、こういった活動には積極的に取り組まなければならない、このように考えております。
松浦大悟君 今年は特例法ができて十年ですけれども、十年たってもなお運用の面においてはこうした差別的な扱いがされているのだということを是非とも御認識をいただき、改善を図っていただければというふうに思います。よろしくお願いいたします。