174 - 衆 - 予算委員会第三分科会 - 2号 平成22年02月26日

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174 - 衆 - 予算委員会第三分科会 - 2号 平成22年02月26日
○井戸分科員 本日は、前政権から積み残された課題のうち、さまざまな事情によって、生まれたお子さんたちが無戸籍状態になって、人生のスタートラインにすら立てずにいるという問題について、法務省としての考え方と具体的な対応について伺っていきたいと思います。
 まず大臣、先般、性同一性障害者特例法により性別変更した兵庫県在住の男性の妻が、人工授精で出産をしたものの、嫡出子としての出生届が不受理となっていて、お子さんが三カ月たった今も無戸籍というケースについて、当事者の御夫妻、そしてその当事者である無戸籍の赤ちゃんとお会いをいただきました。
 この問題は、性同一性障害についての問題だけではなくて、広く非配偶者間の人工授精の問題ですとかいろいろなこと、いわゆるAID児の法的取り扱いについての議論も内包する極めて大きな問題であると思いますけれども、まずは大臣、当事者の御家族とお会いになったときの御感想を伺ってもよろしいでしょうか。
○千葉国務大臣 わざわざお訪ねをいただき、そしてその思いをお話しいただいて、大変私も、何とかしてさしあげなければいけないんだなということを改めて感じさせていただいたところでございます、元気な赤ちゃんでもございましたし。
 そういう意味で、ぜひその思いを受けとめて、どういう形で解決をすることができるのか、本当に真剣に考えさせていただきたいと、そのとき改めて胸に刻ませていただいた、こういう気持ちでございます。
○井戸分科員 面談の間が短い時間でしたので、御夫妻はその思いを十分に伝えられないかもしれないと思って、大臣にお手紙を差し上げております。このお手紙をお読みになったと思うんですけれども、私は、この御夫妻の特に妻の方、夫とともにこの障害を乗り越えて生きていこうと決断をなさった方の手紙の文面の中に、この問題が抱える深刻さというものを感じました。一部紹介をしていきたいと思います。
  昨年十一月、息子が誕生してからの私たちの生活は、妊娠中に想像していた幸せとは程遠く、つらく悲しい日々でした。法律とは何でしょうか。世間一般とは?普通とは?
  そんなことを繰り返し思い悩む毎日です。
  私の愛する男性は、国から父親として認められることができず、今、苦しんでいます。
  世間一般に当てはまるであろう、多くの五体満足の人と、少数の何らかの障害を持って生まれた人との間に、法律で差をつけられることなど、決してあってはならないと思います。
  どんな風に生まれても幸せに生きる権利は誰にでもあります。当然主人にも。
  今までずっと苦労が多かったことだろうと思います、毎日の生活の中で、常に苦しい思いをしてきたに違いありません。そんな彼が人生の何分の一かをかけて、やっとの思いで本当の姿を手に入れて、幸せに生きることをまっとうしようとしていた矢先に、このようなことになってしまいました。
  今可能な最速で最善の方法で、この件を解決してください。性同一性障害夫婦の子も「嫡出子」として認め、主人を「父親」にしてください。息子を法律上でも存在する子にしてください。
こうした内容だったんですけれども、改めて、大臣、このお手紙の内容を聞かれてどのようにお思いでしょうか。
○千葉国務大臣 私も読ませていただきました。何というんでしょうね、重い心のうちというのがその文面からも本当に私も伝わってきたような気がします。
 性同一性障害という障害を持たれながら本当に頑張って生きておられる、そういう皆さんに対して、私も本当に、当初十分に理解が及ばなかったところがございますけれども、これまでの活動の中で、やはりきちっと社会の中で普通に生きることができるように、こういう意味での法律の整備などにはいささか取り組ませていただいてきましたけれども、それにしても、まだまだ、その際にも思いが及ばない問題が、あるいはこうやって新たに御提起をされるような実情が出てきているということを本当に改めて重く受けとめているところでございます。
 そういう意味では、いろいろ皆さんの御協力、そして御理解等もいただきつつ、法律の整備あるいは運用等の面でも、何とか、いわゆる性同一性障害の皆さんだからがゆえに差別がされるような、そういうことはないようにしていかなければならないというふうに考えております。
○井戸分科員 先般、この問題が報道されて直後だったと思うんですけれども、一月十二日の閣議後の記者会見で、大臣は、このままでは問題ではないかと思っている、今の民法の中で、性同一性障害ということとは別に、一定の解釈で認めている部分があるのに、片方だけを否定するということは、ちょっと無理があるという認識をしている、そういう意味では、法整備が必要なのか、解釈をもう一度整理し直すのか、できるだけ早く検討、議論しなければならないと思っていると述べられております。
 また、私と一緒の兵庫県選出の辻泰弘参議院議員が、一月の二十七日の参議院予算委員会で質問されております。これに関して大臣は、根底には生殖補助医療の問題、この問題をきっちりと整理していかなければならないということである、それから、性同一性障害の方の特例法、このときにもここまでのことは予想をされていなかったという面もあるので、今法整備が必要なのか、あるいは何らかの運用ができないものか、政務三役のもとで今精力的に検討させていただいているということを御答弁なさっています。
 本当にこの問題というものは、性同一性障害にかかわらず、AIDのお子さんたちの問題ともかかわってまいります。
 AIDは、非配偶者間の人工授精によって、実際の父親、生物学的な父親とは別に、法律婚をしている不妊の男性の間のお子さんとして、嫡出子として今は戸籍を作成されているようなことになるんですけれども、AIDについては、一九四九年に日本では初めて行われていまして、以来六十年がたっていて、慶応大学で初めてAIDが行われたんですけれども、慶応大学だけでも一万人のお子さんたちがこのAIDで出生をしている。
 逆に言えば、そのお子さんたちは、例えば自分がAID児だということに関しては、成人してから突然、やはり血液型だったりそういったことを調べたときに自分の父親じゃないということを知ったり、もしかして自分は不倫の子だったんじゃないかとか悩んだりとか、そういういろいろな問題があるんですね。しかしながら、六十年間これが実際には行われてまいったんですけれども、法整備がなかなか進んでこなかったということは、私は非常に問題であると思っています。
 資料の方で朝日新聞さんの記事というものを皆さんにお渡しをさせていただいているんですけれども、二〇〇三年に厚生科学審議会の報告が出て、同じ年に法制審議会の試案というものも出ているんですね。
 これに関しては、性同一性障害の方たちもそうですけれども、当然、夫婦間で合意をしてAIDをやられるわけです。合意があった場合に関しては嫡出子として認めていこうという方向性のものが出ているというふうに私は認識をしておりますけれども、そこからの議論というのが頓挫をして、途中、代理出産をめぐりいろいろな議論が行われたり、また二〇〇八年には日本学術会議の報告書なんかも出ているんですけれども、そうした外側の議論とは別に、法改正とか法の立法という形での、この形は出なかったというのが非常に残念に思います。
 諸外国を見ますと、例えばイギリスでは一九九〇年、ヒトの受精及び胚研究法というのが制定されて、これまで数度の改正をされていて、二〇〇八年には、例えばドナーで同じような形で生まれた兄弟を知ることもできるようになっています。ニュージーランドでも二〇〇四年に、スウェーデンでは一九八四年に人工授精法というものが制定され、二〇〇六年にはこれが廃止をされて、逆に、新しい遺伝子に関する統合法というものが施行されております。
 なかなか進まなかった理由というか、この間、大臣は積極的にこの問題について取り組まれていたのは存じ上げてはいるんですけれども、これからこの問題に関してどのようなタイムスケジュールで取り組んでいかれるお考えか、伺ってもよろしいでしょうか。
○千葉国務大臣 この間、井戸委員にもいろいろな節目節目に御意見をいただくような機会もございました。
 この生殖補助医療の問題、そしてそれに伴う法制審議会の議論、せっかく一定のところまで進んだものだというふうに思っております。ただ、あの当時、いろいろな各党各会派あるいは与党内での御調整もなかなかつきにくかったというふうには伺っておりまして、そこで厚労省の中心になっている医療の問題の方がそのまま滞ってきたという実情もあるように思います。
 別に人に責任転嫁をするという意味ではなくて、やはりそこが十分に議論を尽くされていないと、私どもの側で、では、どこまでをきちっと法的な守備範囲にするかということの基準をつくるのが、なかなかこれもまた難しいということがあろうかと思いますが、おっしゃったように、こちらの、何か、いや、なかなか難しいというような都合で考えている間に、本当に多くのお子さんやあるいは御両親が悩んでおられる、そういう実情があるわけですので、いつまでということを今の段階で申し上げることはまだまだできませんけれども、先ほど御指摘がありましたように、政務三役のもとで、厚労省にもできるだけ御議論を進めていただくようなそういうお願いもしつつ、議論を進めていきたいというふうに考えております。
○井戸分科員 これは、ある意味、議論は尽くされているので、あとはもう最後、まとめる段階に入っているのではないかなと思うんです。ここからもう一回改めて議論を最初からというのでは、なかなか、それこそ本当に六十年たっていて何も法律ができていない、その間にいろいろなケースで生殖補助医療を使って出生されるお子さんたちがいる。そのお子さんたちが、法律がないがゆえに無戸籍になったり、もしくは法律がないがゆえに自分の出生について、出自というものを知る権利を奪われてしまう。
 こういったことはあってはならないと思うので、ぜひともリーダーシップを発揮していただいて、厚生労働省の方にもこうした検討をいつまでにやってもらいたいということを強く要望していただいて、そして法整備の方に取りかかっていただきたいと思うので、どうぞよろしくお願いをいたします。
 先般、当事者の方とお話をしたときに、こうしたことというのは、なかなか当事者の方たちが意見を述べる場というのがなかった、特に性同一性障害の方の子の出生に関してはヒアリングの場所というものもなかったので、できたらば、政策決定じゃないですけれども、新しく法律をつくる上でも彼らの声を聞いてほしいということの要望がありました。
 大臣からは、そうした機会を、どんな形になるかわからないけれども、なるべくつくっていきたいということを御答弁いただいたんですけれども、改めてこうしたヒアリングを行っていただく、性同一性障害やまたAID児の方、親御さんやお子さんたち、もう成人なさっている方たち、六十年たっていますから、いろいろいらっしゃると思うんですけれども、そうした当事者の方々のヒアリングを行っていく御意思があるかどうかということを伺いたいと思います。
○千葉国務大臣 今後、立法化あるいはさまざまな制度の改正、こういうものの運用上、考えていくに当たって、いろいろな場があると思うんですね。おっしゃったように、これから勉強するのは何事ぞということではありますけれども、最終的な、基本的な法律を改正するということになりますと、例えば法制審議会の御意見も聞くというような機会もあるかもしれませんし、あるいはこういう国会の場でさまざまな御議論をいただくということもあろうというふうに思います。
 いろいろな場面があると思うので、ぜひそういうことを通じて、当事者の皆さん、やはりこういう問題でお悩みの皆さんの生の声をお聞きできる、こういう機会は私はあるものだというふうに思いますし、それを私も働きかけていきたいというふうに思っております。
○井戸分科員 性同一性障害の方々は、それで法によって性別変更しても、戸籍で、結婚とかをしたとしても、転籍をして新戸籍をつくったとしても、そこに性別変更をしたという記載というものが残っていくという問題もあるんですね。なので、いつも戸籍を見れば、男とは書いてあるけれども、そこにもと女性の、もと女の男というのがずっとつきまとってしまう。こうしたことも、今回この問題が出てきているのも、その記載がなければ、戸籍窓口では通常の一般の方のAIDのお子さんと同じように出生届が受け入れられるんですね。なので、ここのところもひとつ検討の課題として御認識をいただければと思います。いかがでしょうか。
○千葉国務大臣 御指摘を念頭に置いていきたいと思います。
○井戸分科員 私がこの性同一性障害の問題に取り組んでいるのは、お子さんが無戸籍になっているというのは、私が取り組んでまいりました離婚後三百日の問題と表裏一体というか、同じ法律によって子供の父親を決める。
 性同一性障害の方は、法律婚をしていてそこに生まれているのにもかかわらず、父親とは血縁である、それが前提だから嫡出子としては認められないと言っていて、離婚後のお子さんたちに関しては、血縁がない、こちらの新しいお父さんの方、婚姻をした夫の方が父親だということを言ったとしても、法的父親なんだ、父親を決めるのは血縁だけではないと。なので、離婚をして既にない家庭であっても、もとの夫を、前夫を父とした出生届でないと受け入れないとずっと厳格に言ってきたんですね。
 この七百七十二条の一項の規定をそのまま運用すれば、今回のケースは、何ら法改正も法解釈も要らずに、嫡出子として性同一性障害で性別変更した方が父親となるのが当然であろうというふうに私は思ったんですけれども、そういった意味でも非常に表裏一体。例えば七百七十二条のお子さんに関しては、だんだん裁判の事例なんかでも、血縁があれば前夫の嫡出を外していくということも運用もされていますけれども、何かケースケースで、その都度都度で判断をされてしまう、統一的なルールがないので非常に現場が混乱をしていると思うんですね。そうしたことも御認識をいただければと思っています。


井戸まさえ
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