境界を生きる:同性愛のいま/4 新たな家族のかたち、探し

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境界を生きる:同性愛のいま/4 新たな家族のかたち、探し
毎日新聞 2013年02月21日 東京朝刊

 ◇2人の父、代理母が子出産 シングルマザー同士も
 カナダの最大都市・トロントですくすくと育つ1歳の双子、ゲン(元)君とライデン(来伝)君には、2人の父親がいる。法的に認められ、同性同士で結婚したゲイ(男性同性愛者)のカップルだ。血もつながっている。代理母が産んでくれたのだ。性の多様性の先には、新たな「家族のかたち」も存在する。

 「パパ」と呼ばれる静岡市出身の中村心(しん)さん(42)と、「ダディ」と呼ばれる米国・オハイオ州出身のマークさん(41)。2人は98年に東京で恋に落ちた。「将来、子どもを持ちたいな」。初デートから夢を語り合った。

 正式に結婚できて、子どもを安全に育てられる国に住もう−−。2人はカナダで永住権を取り、07年に移り住んだ。トロントには、子どもを持ちたい同性カップルが養子制度や代理母について学んだり、育児指導を受けたりする、世界的にも珍しい公共の「ゲイの父親教室」がある。2人も3カ月受講した。

 両親がゲイで、子どもはしっかり育つのか。そんな心配もあった。だが、父親教室でゲイのカップルに育てられた子どもが「愛情をかけて育ててもらった。何の問題もありません」と胸を張るのを見て、心は決まった。

 翌年、日本人と米国人の親を持つ女性から卵子提供を受け、受精卵を凍結保存した。だが、大変なのはそこから。「危険を冒して子どもを産んでくれる代理母を探さねばならなかった」と心さんは振り返る。

 ようやく代理母が見つかったのは2年半後。インターネットのサイトに代理母を探していると書き込んだところ、偶然目に留めた女性がいたのだ。夫と2人の子どもに囲まれ、満ち足りた生活を送っていたこの女性は「ゲイのカップルにも幸せになってほしい」と、代理出産を申し出た。

 双方の精子をそれぞれ使った受精卵で双子が欲しい。2人の要望を、女性は快く受け入れた。心さんは女性の妊婦健診に毎回付き添い、出産を支えた。そして11年秋、元気な双子が生まれた。

 現在、平日の子育てはホテル関係の仕事を休職した心さんが担い、生活費は会社員のマークさんが稼ぐ。代理母とは「家族のように」毎週メールを交換している。

 「若いころはゲイであることに絶望し、自殺も考えた。こんなに素晴らしい未来があるとは」。心さんがやさしくほほ笑んだ。

 同性愛者は子どもまで巻き込むべきではない−−。同性愛の当事者の中にさえ、こんな声がある。だが「ゲイの父親教室」でコーディネーターを務めるクリス・ベルトーベンさんは訴える。

 「そう考えてしまうのは社会が原因。『人種差別があるから黒人は子どもを持つな』と言う人がいますか」

     ◇
 契約社員の麻実さん(35)と会社員の緑さん(36)=ともに仮名=は、それぞれの小学生の娘と4人で暮らす。男性と結婚し、出産後に離婚した2人の女性が愛し合い、子どもとともに「一つの家族」になったのだ。

 もともと女性が好きだった麻実さんは「我慢すれば男性を愛せるはずだ」と24歳で結婚。子どもができた。しかし、やがて自分を偽ることができなくなり「男性も愛せると思っていたが、違った」と、夫に告げた。

 麻実さんと同じような境遇にある緑さんはシングルマザーの友人として互いの生活を支え合ううちに、互いにひかれ合うようになった。

 「彼女の子どもにとっては、泊まりがけで遊びに来ていた親子が、いつしか毎日泊まるようになった感じ」と麻実さん。だが3年前、結婚式を挙げることを決めたのを機に、2人が夫婦のような関係だと子どもたちに打ち明けた。

 子どもたちは当初「ポカーンとしていた」が、しっかり説明すると、受け入れたようだ。小学校には「親戚同士で暮らしている」と伝えている。「変に誤解されると困るから、友達には言わない方がいいよ」と子どもに話すのはつらい。でも、麻実さんは、こう話すようにもしている。

 「長い歴史の中で、多くのマイノリティーが生きづらさと闘ってきた。2000年代に入ってから、同性同士で結婚できる国も出てきた。日本もきっと変わるよ」【丹野恒一】(25日にインタビューを掲載します)