境界を生きる:同性愛のいま/3 LGBT市場狙う企業

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境界を生きる:同性愛のいま/3 LGBT市場狙う企業

毎日新聞 2013年02月20日 東京朝刊


 ◇高い可処分所得、消費動向調査 当事者限定、就職説明会も

 「ゲイ(男性同性愛者)の人たちは可処分所得が高く、旅行やファッションにお金をかける。このマーケットをいかにつかむか」

 昨年11月、東京都新宿区。「新富裕層LGBT戦略」と題したセミナーに、旅行代理店や航空会社、大手ホテルの担当者ら25人が集まった。ゲイを中心とした性的マイノリティー(LGBT)を「富裕層」と位置付け、海外からの観光客誘致につなげる狙いだ。

 セミナーを企画したのは、旅行コンサルティング会社「SKトラベルコンサルティング」(東京都北区)。年間約150組のゲイのカップルを日本に送っているというロサンゼルスの旅行代理店スタッフらが講師を務めた。「ゲイは知性的な人が多く、ゆったりと旅を楽しむ。必然的に宿泊数が増え、単価も上がる」と語る講師。「日本でも通用するか」という質問に「成功しない理由がない」と言い切った。

      ◇

 LGBTの存在をビジネスチャンスととらえる動きが、一部の企業に出てきた。

 日本では、カミングアウト(告白)の難しさもあり、就労の問題を抱えるLGBTは少なくない。だが、カップルが2人とも男性で、双方に収入があるゲイの場合、経済的に比較的余裕があるとも言われる。

 電通総研は昨年、初めて国内のLGBTに関する大規模な消費動向調査を実施した。インターネットを使い、20〜50代の男女計約7万人からLGBT層490人と一般層300人を抽出し、回答を比較した。

 「どんな商品にお金をかけるか」との質問に「海外旅行」と答えたのは、LGBT男性が一般男性の2・6倍。「国内旅行」は約1・5倍、「化粧品・理美容品」は約2・7倍にのぼった。女性では「車・バイク」で、LGBT女性が4倍近く高かった。

 マーケティング会社「コチ」の東田真樹社長は「LGBTがお金をかけるジャンルとかけないジャンルを見極め、うまく訴求する商品やサービスを提供できれば、大きなビジネスチャンスがある」と話す。

 大手旅行代理店のJTBは2年前、社内にLGBTのマーケティングチームを作った。法人専門のグループ会社で企画・販促を担当する百中さおりさんは「旅行者を受け入れる関係企業はまだ、LGBTとは何かが分かっていない」と指摘。LGBTへの理解を深めるため、まずは企業向けの海外視察旅行を企画中だ。

 こうした企業の姿勢に対し、当事者たちは「LGBTへの関心が深まるのは好ましいこと」と評価する声がある一方で、ビジネスの対象としてだけ見られることへの冷ややかな見方もある。性的少数者が働きやすい職場環境を求める市民グループ「虹色ダイバーシティ」の村木真紀代表は、こうくぎを刺す。

 「LGBTに取り入ろうとしても、その企業にいる当事者が安心して働ける環境でなければ、それが口コミで広がり、かえって反感を買う可能性もある」

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 セミナーが開かれたのと同じころ、東京都港区の六本木ヒルズ森タワー47階に、リクルートスーツに身を包んだ約30人の学生が集まった。外資系金融大手「ゴールドマン・サックス」が実施した、LGBT限定の就職説明会だった。

 前方のスクリーンに、中継で結ばれたニューヨークのオフィスにいる女性幹部が映し出された。彼女は女性パートナーがいることを明かし「自分のスタイルを隠さなければならないような会社は選ばないように」と、自社がいかにLGBTにとってチャンスのある企業であるかを訴えかけた。

 連載の第1回で登場した法政大3年のマコトさん(23)は、現在就職活動中。面接ではゲイであることを明言したうえで、LGBTへの理解を深めるための出張授業などを行うサークルでの活動の実績をアピールする考えだ。「それを理由に拒絶するなら、企業の方がおかしい」

 LGBTに友好的であることが、企業のアピールポイントになる−−。そんな時代が目の前に来ている。【丹野恒一】=つづく