発達障害で求刑超す判決 大阪地裁「社会秩序のため」

中国新聞 2012.7.31
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201207310067.html
発達障害で求刑超す判決 大阪地裁「社会秩序のため」

 大阪市平野区の自宅で当時46歳の姉を刺殺したとして、殺人罪に問われた無職大東一広おおひがし・かずひろ被告(42)の裁判員裁判で、大阪地裁は30日、犯行に発達障害の影響があったと認めた上で「再犯の恐れがあり、刑務所収容が社会秩序維持に資する」として、求刑の懲役16年を上回る懲役20年の判決を言い渡した。

 判決理由で河原俊也かわはら・としや裁判長は、約30年間引きこもり状態だった被告が姉に逆恨みを募らせた動機の形成などに先天的な広汎性発達障害の一種、アスペルガー症候群の影響があったと認定した。

 その上で(1)十分に反省していない(2)親族が被告との同居を断り、社会内でアスペルガー症候群に対応できる受け皿が用意されていない―の2点から再犯の恐れがあると指摘し、「許される限り長く刑務所に収容し内省を深めさせることが社会秩序の維持にも資する」と量刑理由を説明した。

 弁護側は障害の影響で恨みの感情をコントロールできなかったとして保護観察付き執行猶予を求めたが、判決は「自分の意思で犯行に踏み切った」として、刑の減軽は考慮すべきではないと判断し、さらに検察官の求刑は軽すぎるとした。

 弁護側は、閉廷後の取材に対し「鑑定人への尋問もあり発達障害への理解が得られると思ったが、主張が認められず遺憾だ。今後控訴を検討する」と話した。

 判決によると、被告は引きこもり生活から抜け出したいという願いが実現しないのは姉のせいだと勝手に思い込み、恨みを強め、昨年7月25日昼、生活用品を自宅に届けに来た姉の腹や腕を包丁で何度も刺し殺害した。

 日本発達障害ネットワークの市川宏伸いちかわ・ひろのぶ理事長は「アスペルガー症候群の人は反省していないのではなく、言われることが分かっていないだけだ。裁判員の理解がないとこういう結果になりやすく、裁判員制度が始まるときに心配していたことが起こった」と批判した。


http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120730/trl12073020360006-n1.htm
産経
発達障害で求刑超え懲役20年判決 「社会秩序の維持に」
2012.7.30 20:34 [刑事裁判]
 大阪市平野区の自宅で昨年7月、姉=当時(46)=を刺殺したとして、殺人罪に問われた無職、大東一広被告(42)に対する裁判員裁判の判決が30日、大阪地裁であった。河原俊也裁判長は、犯行の背景に広汎性発達障害の一種、アスペルガー症候群の影響があったと認定した上で「家族が同居を望んでいないため障害に対応できる受け皿が社会になく、再犯の恐れが強く心配される。許される限り長期間、刑務所に収容することが社会秩序の維持に資する」として、検察側の懲役16年の求刑を上回る同20年を言い渡した。

 河原裁判長は判決理由で「計画的で執(しつ)拗(よう)かつ残酷な犯行。アスペルガー症候群の影響は量刑上、大きく考慮すべきではない」と指摘。その上で「十分な反省がないまま社会に復帰すれば、同様の犯行に及ぶ心配がある。刑務所で内省を深めさせる必要がある」と述べ、殺人罪の有期刑上限が相当とした。

 判決によると、大東被告は小学5年のころから約30年間引きこもり状態で、生活の面倒をみていた姉に逆恨みを募らせ殺害を決意。昨年7月25日、市営住宅の自室を訪れた姉の腹などを包丁で何度も刺し、死亡させた。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120730/trl12073023330007-n1.htm
発達障害で求刑超えた判決 「国民感覚に沿った判決」「すぐに再犯に走るわけではない」評価分かれる
2012.7.30 23:31
 アスペルガー症候群の被告に求刑を超える懲役20年を言い渡した大阪地裁判決は、量刑理由で「再犯の恐れ」や「社会秩序の維持」に強く言及した。有識者は「裁判員裁判らしく、一般の国民感覚に沿った妥当な判決だ」と評価したが、臨床心理の専門家からは疑問の声もあがった。

 弁護側は公判で「被告が殺意を抱いたのは障害のためであり、どうすることもできなかった」として、保護観察付き執行猶予を求めた。しかし、判決は「犯行の残虐性や結果の重大性から、執行猶予にする事案ではない」と退けた。

 元最高検検事の土本武司筑波大名誉教授(刑事法)は「責任能力に問題がない以上、刑罰を決めるにあたって最も重要な点は社会秩序の維持だ」と強調。「検察側の求刑が軽すぎた。裁判員の判断の方が常識にかなっている。裁判員裁判を導入した成果といえるだろう」と述べた。

 一方、発達障害に詳しい六甲カウンセリング研究所の井上敏明所長(臨床心理学)は「アスペルガー症候群だからといって、すぐに再犯に走るわけではない。発達障害には家族など周囲の理解が必要だ。単に刑務所に長期収容するだけでは何の解決にもならない」と批判した。


http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=62528
姉刺殺の被告に求刑超す判決…大阪地裁
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 昨年7月、自宅を訪ねてきた姉(当時46歳)を包丁で刺殺したとして殺人罪に問われた大阪市平野区の無職大東一広被告(42)の裁判員裁判の判決が30日、大阪地裁であった。

 河原俊也裁判長は、大東被告が広汎性発達障害の一つである「アスペルガー症候群」だと指摘。「社会内にこの障害に対応できる受け皿が用意されていない現状では、再犯の恐れが強く心配される」として求刑(懲役16年)を上回る懲役20年を言い渡した。

 大東被告は同月の逮捕後、大阪地検の精神鑑定で、この障害があると診断された。地検は刑事責任能力に問題はないとして昨年11月に起訴。公判で大東被告は罪を認め、弁護側は、犯行には障害が影響したと主張。保護観察付きの執行猶予判決を求めた。

 判決で河原裁判長は「約30年間、自宅に引きこもっていた被告の自立を促した姉に恨みを募らせた」などと動機を認定。障害の犯行への影響を認めたが、「量刑で大きく考慮することは相当でない」として量刑面の弁護側の主張を退けた。

 一方で、障害に対応できる受け皿が社会に整っていないとの認識を示し、「十分な反省のないまま社会復帰すれば、同様の犯行に及ぶことが心配される」と指摘。量刑判断に社会秩序の維持の観点も重要として「殺人罪の有期懲役刑の上限で処すべきだ」と述べた。

 最高検によると、裁判員裁判で求刑を超える判決は20日現在で26件。大半は1〜2年だが、今年3月には大阪地裁で幼い三女への傷害致死罪に問われた両親(控訴)に求刑の1・5倍の懲役15年が言い渡された。
支援団体「障害の特徴に理解を」

 大東被告の弁護人の山根睦弘弁護士(大阪弁護士会)によると、公判では証人申請した精神科医に障害の特徴などを証言してもらい、弁論で「刑務所に入れるのではなく治療が必要だ」と訴えた。山根弁護士は「裁判員に障害の実情を十分に理解してもらえなかったかもしれない」と振り返った。

 今回の判決について、障害を持つ人々の家族らで作る兵庫県自閉症協会の岩本四十二会長(68)は「再犯の恐れがあるとの根拠を障害に求めるのは納得できず、障害を持つ人が、事件を起こしやすいかのような偏見を持たれるのではないか。知的能力に問題がなくても、障害の影響で社会的規範が身に着いていない場合もある。そうした特徴をきちんと理解した上で、判決を下したのか疑問だ」と話した。

 一方、大阪地検の大島忠郁(ただふみ)次席検事は「コメントすることはない」とした。
アスペルガー症候群 生まれつきの脳機能障害が原因とされる。著しい言葉の遅れや知的障害は見られないが、対人関係の構築や感情のコントロールが苦手とされ、周囲から理解されにくい面がある。

(2012年7月31日 読売新聞)