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胸、声変わり…「学校イヤ」 【ボーダー その線を越える時】性
産経新聞 2月26日(土)7時58分配信
≪子供≫
膨らむ胸と、生理が嫌だった。岐阜の田舎町に生まれた少女は漠然とした心と体の違和感を覚えていた。中学3年の時、友達の家で初めて化粧をした。「心が変わるかも」。こう思ったが気持ち悪いだけだった。
平成20年3月。卒業式の数日前に、「女の子が好き」と母親(44)に打ち明けた。「否定したらこの子は傷つく」と思った母親は数日後、職場に向かう車の中でひとり泣いた。
「こいつがあるから…」。高校1年の時には制服のスカートを破った。母親は担任に「性同一性障害だと思う」と相談した。しばらくして女子用の制服のズボンも用意されたが、周囲の目が気になり、引きこもりがちになった。
学校に行かずソファで寝ころぶ少女に母親は「このままではダメになる」。2人は21年10月、環境を変えるため東京に飛び出し、通信制の高校に編入した。
18歳になった少女は、勉強の傍ら新聞を配達する。短髪の頭にタオルを巻き、胸の膨らみを押さえつける特殊なシャツを着て自転車のペダルをこぐ。「シャツは毎日着ている。着ないと不安で外に出られない」
◆初のスカート
21年3月、神奈川県内の小学校の卒業式で、少年は学校で初めてはいたスカートのしわをしきりに伸ばした。新しく考えた女の子の名前で先生に呼ばれても返事ができない。見守っていた母親(47)は「緊張している」と思った。でも少年は笑顔だった。
少年は教科書に、本名ではなく女の子の名前を書くこともあった。小学6年の夏、母親の前で「自分の心にウソはつけない」と泣いた。精神科医からは性同一性障害と診断された。
相談に乗ってくれた小学校の校長は中学校側に女子生徒として扱うよう掛け合った。「これから助けてあげてほしい」。卒業式直前には同級生たちにこう呼びかけた。中学校に入学した少年は、女子の制服に喜んだ。髪にカールをかけ、おしゃれも楽しんだ。女子トイレに入るときは、同級生が付き添ってくれた。
順調に進むかに見えた中学生活だったが、2年生の少年は今、学校を休みがちだ。第2次性徴による声変わりに苦しみ、「おはよう」の一言が言えない。母親はこれからの体の男性化を心配している。
◆治療に慎重論
大阪医科大ジェンダークリニックで1月18日、第2次性徴を止める「抗ホルモン剤」投与の同意書に兵庫県内の小学6年の男児と母親が署名した。同クリニック准教授、康純(こう・じゅん)(48)が「次に来たとき始めよう」と話しかけると、性同一性障害の男児はうれしそうにうなずいた。
女の子として小学校に入学した男児は5年の時、たまたま口の周辺に毛が1本生えていたのを見つけ、ひげが生え始めたと思い込んで「死んだ方がマシ」と泣きじゃくった。定期的に測っていた血中の男性ホルモンは昨夏、第2次性徴の影響で数値が著しく増えた。康は親子と話し合い、抗ホルモン剤投与を決断した。
思春期の身体の変化を一時的に止める治療には慎重論があり、治療方法を定める日本精神神経学会のガイドラインには盛り込まれていない。同医科大では倫理委員会で慎重に検討を重ね、実施を決めた。
康は「この治療は世界的には標準的な治療の一つとなっており、可能性をつぶしてはダメだ」と訴える。
多くの患者を診察してきた「はりまメンタルクリニック」(東京)院長、針間克己(45)は懸念する。「周囲と発育状況が違うことに苦しむ可能性もあり、十分なケアが必要。今後、治療環境が整わない医療機関で安易に行われないかが心配だ」
=敬称略
【用語解説】抗ホルモン剤
精巣や卵巣を刺激する脳下垂体に働き、性ホルモンの生成や分泌を抑える作用がある。大阪医科大が投与を決めた「LH−RHアゴニスト」は、声変わりや月経といった「第2次性徴」が異常に早く現れる思春期早発症の治療にも使用されており、製造元の武田薬品によると、副作用はほぼないという。性同一性障害の治療では、岡山大病院が女子高生に投与した例がある。女子高生は18歳で投与を中止して男性ホルモン剤の投与に切り替え、20歳で乳房切除と性別適合(性転換)手術を受けた。
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