小児の性同一性障害 第2次性徴で苦痛増大

神戸新聞
http://www.kobe-np.co.jp/news/kurashi/0003759979.shtml
小児の性同一性障害 第2次性徴で苦痛増大 
 性同一性障害GID)のため女児として小学校に通う兵庫県播磨地方の男児(12)に対し、抗ホルモン剤の投与で第2次性徴を抑える治療は、今春の中学校進学を前に大阪医科大ジェンダークリニック=大阪府高槻市=で決断された。GIDの子どもにとって、第2次性徴を迎える中学時代は身体的な変化が急で、精神的な苦痛が増大。自殺を考えたり、不登校になったりするケースが目立つことが背景にある。


 第2次性徴を迎えると、男子の場合、声が低くなり、体つきががっしりとしていく。GIDと診断され、兵庫県内の公立高校に女子生徒として通う男子(16)。母親(53)によると、小学高学年から中学時代について「何回マンションから飛び降りようと思ったか分からない。死ぬほど悩むし、第2次性徴は大きな壁」などと話したという。

 ひげや足の毛を頻繁にそり、広がる肩幅や変声に苦しんだ。男子生徒として入学した中学校では不登校になり、母親に「なんで女に産まんかったんや!」と感情をぶつけたこともあるという。

 母親は「体の性と心の性の“距離”が離れていく第2次性徴は、本当につらい時期。そういう悩みを抱える子どもへの理解が、教育現場などでもっと広がってほしい」と話す。

自傷経験16% GID学会理事を務める「はりまメンタルクリニック」(東京)の針間克己院長の調査(2008〜09年)では、GID患者1138人の62%が自殺を考えたことがあり、時期は中学時代が最多。リストカットなどの自傷経験も16%で、中学・高校時代が目立った。

 今回、男児に行われることになった抗ホルモン剤の投与について、GID学会理事長の中塚幹也岡山大教授は「精神的な安定を図る目的がある」と話す。中塚教授自身も、過去にGIDと診断された高校生に対して投与した経験がある。

 高校生は心は男性で体が女性という症例で、中学3年の時、母親に連れられて岡山大付属病院ジェンダークリニックを受診。1年間ほど精神科医によるカウンセリングを受けたが、月経が訪れるたびに自殺未遂を繰り返したという。

 「死にたいと口にするのと、実際に行動に移すのでは次元が違う。何かしてあげなければならない症例だった」と中塚教授。外部の第三者も加わった同クリニックの運営会議で話し合った上で治療を決めた。

 抗ホルモン剤の投与を始めると月経も止まり、同時に自殺未遂も起こさなくなったという。重い副作用もなく18歳まで投与を続け、その後、男性ホルモンの投与に切り替えた。現在は成人し、男性として暮らしている。

症例は慎重に ただ、抗ホルモン剤の投与は男女で開始のタイミングや期待できる効果には違いがあるという。今回の男児は第2次性徴の早い段階で投与を始める。中塚教授は「体が男性の場合、将来、外見的に女性として通用しやすくなる点も大きい」と指摘する。

 一方、投与は性別の違和感が強くなったときに始めるべきで、体が女性の場合は月経が一つの指標になるので分かりやすい。男性の場合、例えば声変わりは少しずつ進み、変化の程度や感じ方の評価は難しいという。

 中塚教授は「症例を慎重に選ぶ必要はある」と断った上で「今後、一つの治療法として認めていくべきだ」と話す。

(中島摩子、鎌田倫子)

(2011/01/24 17:00)