成人と思春期の性同一性障害者へのホルモン療法3

ホルモン療法
反対の性別の二次性徴を可能な限り獲得することが、性同一性障害患者の身体治療の基本である。明らかに、二次性徴の獲得は、性ステロイドに依存している。ホルモン療法を行う大人の性同一性障害者は、大人になった時点で、既にホルモンによる男性化ないし女性化が進行しているという、不利がある。
 不幸なことに、ホルモンによってもたらされた、もともとの性徴の除去は完ぺきにはめったに出来ない。MTFにおいては、骨格(高身長、手、足、あごの形と大きさ、骨盤)への男性ホルモンの影響は、その後のホルモン療法では、転換できない。反対に、FTMにおける、男性と比較しての低身長や大きなしりは、アンドロゲン投与によっては転換できない。しかし、これらの特徴は男女間でかなりの部分重なり合い、いくつかの人種では、より重なり合う。それゆえ、生まれつきの性別の特徴が、比較的目立たない性同一性障害者もいる。
 治療を望む性同一性障害者は、典型的には、若者から中年の健康なものであり、それゆえホルモン療法の絶対的または相対的禁忌であることは少ない。エストロゲン使用の相対的禁忌としては、乳がんの強い家族歴および、プロラクチン産性下垂体腫瘍を認めることだ。アンドロゲン使用の相対的禁忌としては、ホルモン依存性の腫瘍ないし、心血管系の障害を伴う重篤な脂質障害だ。心血管系疾患、脳血管系疾患、塞栓症性疾患、著明な肥満、コントロール不良の糖尿病、重篤な肝障害があるときは、ホルモン投与は慎重であるべきだ。
 いかなる外科治療においても、手術の3,4週間前には、ホルモン投与をやめるべきことが推奨される。体を動かさないことが、塞栓症のリスク要因であり、性ステロイドは、この塞栓症のリスクを増加させうる。ホルモン補充療法をしているほかの患者たちと同様に、外科手術の後に、十分に体を動かすようになれば、ホルモン療法の再開は可能だ。