レインボーマーチが聞こえる:性的マイノリティーの日常 番外編/上 /北海道

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レインボーマーチが聞こえる:性的マイノリティーの日常 番外編/上 /北海道
 ◇身近な存在と自覚して−−精神科医臨床心理士、平田俊明氏
 性的マイノリティーとして生きるLGBT(レズビアン=女性同性愛者▽ゲイ=男性同性愛者▽バイセクシュアル=両性愛者▽トランスジェンダー=心と体の性が一致しない人)。札幌で暮らす彼ら、彼女らの日常を追った連載の番外編として、各分野の識者3人に、LGBTを取り巻く問題と解決策、背景について聞いた。【中川紗矢子】

 −−同性愛者などLGBTの人は、一般の人より自殺する危険性が高いとの専門家の指摘やデータがあります。その原因は何だと考えられますか?

 ◇生きづらさからストレスでうつ病を発症する割合が多いと考えられる。背景には本人の自己肯定感の弱さがある。自分の存在が世の中から認められていないという感覚が、自殺を踏みとどまらせにくい要因になっている。自分の将来のロールモデル(模範像)がいないため、希望を持って生きていくのが難しい面もある。
 −−世の中から認められていないという感覚を持つのは、なぜでしょうか?

 ◇同性愛などが「気持ち悪い」と言われたり、からかいの対象にされるのを子どものころから体験し、肯定的メッセージに触れないまま成長していることが大きい。LGBTへの偏見やホモフォビア(同性愛への嫌悪感)を持ったまま、アイデンティティーが形成される最も多感な思春期に、自分がLGBTだと気付く。そうすると自己肯定感が大きく損なわれやすい。
 −−他のマイノリティーが抱える問題との違いは何でしょう?

 ◇人を好きになることは、人間の本質的な部分。そこに偏見を持たれるのは、道徳的に間違った人間だと指摘されるようなもので、否定の意味合いが強くなる。また、個人のセクシュアリティー(性的指向)は、笑いやからかいの対象となりがちで、人権問題として深刻に受け取られない傾向がある。
 −−問題解決につなげるには?

 ◇学校とメディアの存在が大きい。成長の過程で、教師などの公の立場にいる大人がLGBTについて肯定的な発言をしてくれたかどうかで、本人の認識は大きく変わる。だから「同性愛者は世の中に存在していて当然」ということを教員養成のカリキュラムに組み込み、学校の授業で扱うようにしてほしい。メディアには、LGBTの人をもっと普通に取り上げるよう望みたい。教師やメディア関係者の中にも当事者が相当数いるはずだ。
 −−社会の制度面では、どうでしょうか?

 ◇同性間の結婚や同性のパートナーが制度的に認められれば、当事者は勇気づけられる。性同一性障害については、04年に戸籍の性別変更を認める特例法が施行されたことが社会の認知につながった。LGBTを「同じ社会の一員」だと認める世の中を作ることが必要だ。
 −−個人で気をつけるべきことは?

 ◇身近にLGBTの人がいるという自覚を持ってほしい。理解の雰囲気が広がれば、カミングアウトしてくれる人も増えるかもしれない。その結果、LGBTの存在が今より「見える」存在になり、社会も変わっていくだろう。
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 ■人物略歴

 ◇ひらた・としあき
 札幌市出身。LGBTに対応した医療で知られる「しらかば診療所」(東京都新宿区)でカウンセリングなどを担当。専門家によるサポート団体「同性愛者医療・福祉・教育・カウンセリング専門家会議(AGP)」の共同代表も務める。自身もゲイであることを公表している。


毎日新聞 2011年2月21日 地方版