「江戸の下半身事情」。
全体的に興味深い本でしたが。
P150-151
>江戸にもいた性同一性障害
麻布今井寺町に、重吉という縫箔職人が住んでいた。女房の小若は二十歳で、新内節の師匠をしていた。ふたりのあいだに子供はなかった。
小若は自宅の稽古場で弟子に稽古をつけるいっぽう、夜には三味線を持って流しに出て門付をしていた。なかなかの美人だったので人気があり、ひいき客に小料理屋に招かれ、酒の相手をしたりすることもあった。
結婚していたが、小岩はお歯黒はせず、歯は白いままだった。髪は割銀杏に結い、小袖や半纏の裏には赤い布をつけるなど、なかなかおしゃれである。外出するときは、女頭巾をかぶり、駒下駄をはいていた。
ただ、小若は日ごろから銭湯にはいっさい行かず、一年中、行水ですませていた。
そうするうち、小若は男ではないかという噂がひそかにささやかれるようになった。
この風評を聞きつけ、嘉永五年(一八五二)十月、町奉行所の役人が小若を召し捕り、調べたところ、はたして男だった。それまで、女とばかり信じていた近所の人や、かよってきていた弟子などは呆然として、開いた口がふさがらなかったという。
役人の取り調べにより、以下のことが判明した。
小若の本名は政吉で、檜物町に住む左官の子供だった。幼いころから、新内の稽古をしていたが、いつしか女の姿になり、重吉に縁付いたのだという。二十歳と称していたが、実際は二十七歳だった。小若は手鎖を言い渡された。
『藤岡屋日記』に拠った。
- 作者: 永井義男
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2008/09/26
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