「gender identity disorders in childhood and adolescence: a critical inquiry」2

2006.9.20、「gender identity disorders in childhood and adolescence: a critical inquiry」の続き。
http://d.hatena.ne.jp/annojo/20060920/p1
DSMの小児の性同一性障害概念の批判論文。

以下続き。


3.小児の性同一性障害精神疾患ではないのでは?
(1)小児のGIDの両親は、しばしば精神的苦痛を抱える。
精神的問題の所在は、親にあるのか、子にあるのか?
機能不全家族としての兆候では?
Marantz:母親は境界例やうつが多い。
Cohen-Kettenis:子供と両親間の不和、夫婦間の不和、育児能力の不足。
Zucker:親自身のが抱えるジェンダー葛藤により、子供の反対の性別への行動を、意識的無意識的に、支持/促進。父はアルコール依存やうつが多い。

Meyer-Bahlbulg:子供ではなく、親に対して治療。子供のMTFに対して、男の子や父親との交流を促す。ジェンダー典型の行動を促すように指示。
Rosenberg:ありのままの子供を受け入れるように指示。

(2)親の評価は当てにならない。
典型的なジェンダー行動を支持する親は、子供の症状をおおげさに申告する。
無力感を感じた親は、子供の症状を大げさに申告する。

(3)以上より、精神疾患ということには疑問
DSMにおいて、精神疾患は、個人に起きる障害。
子供のGIDは、個人と社会との間の葛藤で生じるものなので、定義に当てはまらない。

4.治療原則
(1)小児のGIDに精神病理的問題があるというエビデンスは乏しい。
Cohen-Kettenis:精神的問題は、仲間はずれの有無との関係。


別の問題があり、それを性別違和で表現しているのでは?
Coates:小児のGIDの60%に分離不安障害があり。


もし精神的問題があるとして、それは精神障害の障害となるのか?
なかまはずれ、レッテル張りの産物に過ぎないのでは?

Bartlet:親の評価は子供の評価と食い違うので当てにならない。 


(2)ほとんどの子供のGIDは、大人になると問題はなくなる。
Bryant:Greenにより治療を受けた「女々しい男の子」が、治療がトラウマになったというケース。
Yunger:子供時代、適切なジェンダー行動を強要されると、自己評価が下がり、問題を内面化させる。親がこどもの非典型ジェンダー行動を受け入れると、子供の苦悩は軽減。

Meyenberg:思春期になれば、多くの場合、非典型的なジェンダー行動はしなくなる。


(3)子供のGIDを典型的なジェンダーに戻そうという治療は有害で、スタンダードオブケアに反する。
Zucker:治療によりいじめられなくなる、将来の精神病理学的問題が減る、大人のGIDになりにくくなる。だから子供のうちにGIDの芽を摘んでおくべきだ。


この治療原則は問題をはらむ。
治療者は「ジェンダー警察」なのか?
治療が有効というエビデンスはあるのか?
貧乏な黒人のゲイがいたら、金持ちの白人ヘテロに治療するというのか。


スタンダードオブケアの治療原則にも反している。
曰く:「子供の治療は、子供を受け入れることから開始すべし」


結論
当面は、子供が治療の決定能力ができるまでは「見守る」という態度が望ましい。
現状ではDSMにリストに載っていることは、「人間の行動は、かくあるべし、という伝統的概念の強化のための武器に過ぎない」。
ジェンダーの自由の拡大を尊重し、子供のジェンダーとの戦いを尊重することが、より人間的だ。