『戦後日本女装・同性愛研究』:現代日本のトランスジェンダー世界―東京新宿の女装コミュニティを中心に

今日は『戦後日本女装・同性愛研究』から、


三橋順子:P355-396 第1章 現代日本トランスジェンダー世界―東京新宿の女装コミュニティを中心に


研究内容は、女装クラブ「エリザベス会館」から拠点を移し、1992年より、新宿の女装社会で活動していた三橋順子の自らの体験と観察に基づいたもの。
内容はきわめて具体的かつリアルで、資料的価値も高いし、私のような門外漢にも、その実態・実際が詳細にわかるありがたいもの。
以下、内容と感想交えつつ。


P369に女装系の店のエリアマップ。
歌舞伎町と2丁目の中間に斜めに女装系の店が連なる様子がわかり、店の分布と、セクシュアリティの位置づけが相関関係をなし興味深い。


で、当然ながら、女装の店と、女装者の詳細な論考が続くが、私として興味深かったのが、女装の店に来る男性客の考察。


タイプとしては3つに分かれる。
1.根っから女装者やニューハーフが好きな男性。
2.「俺にとっては女」という考えの男性。
3.安く楽しめればどこでもOKという男性。女性にはもてなくても女装者ならもてるのではという幻想を持つ人もいる。しかし、ほとんど幻想で終わる。


1のタイプのセクシュアリティを論じるとき「中間的な性別が好き」という「オリエンテーション」の問題なのか、「ペニスがある女性が好き」という「性嗜好」の問題なのか、個人的には興味深い。
3は、もてないやつはどこに行ってもやっぱりもてないということか。まあ、そもそも「女装者にはもてるだろう」という根性に問題がありそうだが。


男性客と女装客の関係性についても興味深い。
つまり、ふたりは擬似的ヘテロセクシュアル関係にある。(裏返せばホモセクシュアルへの差異意識・嫌悪感もあり)
と、ここまでは予想してたが、もうひとつ
ふたりとも昼間はノーマルな男性社会人、
という「ノーマル共同幻想」があるという。つまりもっぱら夜の仕事が専門の女性ホステスより、昼間はリーマン仲間、という意識で共同意識が持てるのだと。
へえー、と思った次第。


さらに、女装者が男性客に転化するケース、その逆に男性客が女装者に転化するケースから、
>女装客と男性客とは、基本的には同根なのである。
という指摘も興味深い。
というのも、性嗜好における主体と客体の逆転、たとえば、マゾ役がサド役になるとか、のぞき好きは露出好きでもある、ということはよくあるので、女装の世界でもありかと、納得した次第。


あと、女装者と男性客は、ゲイカップルお断りのラブホテルにも入れるという。
あるいは、女装者であっても、デパートや飲食店で女性として扱われるという。
これは、日本伝統文化の「見立て」に由来するという指摘。
なるほど興味深い。


まあ、欲を言えば、「性同一性障害」概念の台頭が女装コミュニティに与えた影響についても論じたものも読んでみたい。


時代の流れのなかで、閉鎖的な「エリザベス会館」から、開放的な新宿女装コミュニティへと人が流れたように、新宿女装コミュニティから、「性同一性障害」へと、人は流れていくのか。
あるいは、新宿女装コミュニティは、今後も独自のスタンスで発展していくのか。
どうなんだろう。

戦後日本女装・同性愛研究 (中央大学社会科学研究所研究叢書)

戦後日本女装・同性愛研究 (中央大学社会科学研究所研究叢書)