ちょうど1週間前、古い友人で、いまは永田町の住人になり、日本の将来を深く憂うF川君と飲んでいたのだが。
皇位継承の話になり。
「男子が継承するのは、男子がY染色体を持っているからだ。ほかの染色体とは違い、Y染色体は、受精後も遺伝子の組み換えが起きない。だから、いまの天皇の持っているY染色体は、ずっと昔から同じまま継承されてきているのだ。もし女子が皇位継承可能となったら、このY染色体の継承が途絶えてしまうではないか。」
といったようなことを言っていた。
興味深い話。
で、ネットで「Y染色体 天皇制」で調べると、同様の主張で、かなり、あちこち盛り上がってる。
http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rls=GGLD,GGLD:2004-34,GGLD:ja&q=Y%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93+%E5%A4%A9%E7%9A%87%E5%88%B6
で、天皇制はともかく。
Y染色体についてネット上で調査。
まずは、ウィキペディア。
http://ja.wikipedia.org/wiki/Y%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93
＞X染色体およびY染色体は他の常染色体と異なり2つで対になっていないため、組み換えが起こりにくい?。しかしY染色体は回文配列を多く含むため、同一染色体内部で高い頻度の組み換えを起こすことが可能である。オス1匹あたり600塩基がY染色体内部で組みかえられている。
とある。これだけだと、信頼性の問題もあるし、意味も十分には分からないので、もっと調査。
http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20030623306.html
ゲノム研究で判明した男性染色体の奇妙な特徴
＞また、Y染色体には回文配列(左右対称な鏡像配列)になっている部分が多く含まれ、この中に多くの遺伝子を配置して完全性を保ってきた。この回文配列は、高い頻度で互いに組換えを起こす――いわば、自分自身とセックスを行なう――こともわかったという。
で、さらに調査し、ネタ論文発見。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=12815433&query_hl=3
Abundant gene conversion between arms of palindromes in human and ape Y chromosomes.
Rozen S, Skaletsky H, Marszalek JD, Minx PJ, Cordum HS, Waterston RH, Wilson RK, Page DC.
Howard Hughes Medical Institute, Department of Biology, Massachusetts Institute of Technology, 9 Cambridge Center, Cambridge, Massachusetts 02142, USA.
Eight palindromes comprise one-quarter of the euchromatic DNA of the male-specific region of the human Y chromosome, the MSY. They contain many testis-specific genes and typically exhibit 99.97% intra-palindromic (arm-to-arm) sequence identity. This high degree of identity could be interpreted as evidence that the palindromes arose through duplication events that occurred about 100,000 years ago. Using comparative sequencing in great apes, we demonstrate here that at least six of these MSY palindromes predate the divergence of the human and chimpanzee lineages, which occurred about 5 million years ago. The arms of these palindromes must have subsequently engaged in gene conversion, driving the paired arms to evolve in concert. Indeed, analysis of MSY palindrome sequence variation in existing human populations provides evidence of recurrent arm-to-arm gene conversion in our species. We conclude that during recent evolution, an average of approximately 600 nucleotides per newborn male have undergone Y-Y gene conversion, which has had an important role in the evolution of multi-copy testis gene families in the MSY.
PMID: 12815433 [PubMed - indexed for MEDLINE]
日本語訳
http://www.natureasia.com/campaign/ychromosome/
＞遺伝：ヒトと類人猿のY染色体にある回文配列の腕どうしの間で数多く見られる遺伝子変換
ヒトY染色体にある男性特異的領域MSYでは、ユークロマチンDNAの4分の1を8個の回文配列が占めている。そこには多数の精巣特異的遺伝子が含まれ、回文配列内での（腕と腕どうしの）配列の同一性は、通常は99.97%にもなる。この高い同一性は、これらの回文配列が約10万年前に起こった重複を介して生じたことを示す証拠と解釈することもできる。本論文では、大型類人猿で配列比較解析を利用し、これらのMSY回文配列のうち少なくとも6個は、およそ500万年前に起こったヒトとチンパンジーの分岐よりも前から存在したことを明らかにする。これらの回文配列の腕ではその後に遺伝子変換が起こって、対応する腕のペアが呼応した進化を遂げる原動力となってきたに違いない。実際、既存のヒト集団内でMSY回文配列の変動を解析すると、ヒトで腕対腕の遺伝子変換が再三起こったことを示す証拠が得られる。最近の進化の過程では、新生児男子1人あたり平均して約600ヌクレオチドでY-Y遺伝子変換が起こっており、これがMSYに見られる複数コピーをもつ精巣遺伝子ファミリーの進化に重要な役割を果たしてきたと我々は結論する。
というわけで、Y染色体は「いわば、自分自身とセックスを行なう」ことで、配列をどんどん変えていくらしい。
だから、結論的には昔のY染色体がそのまま現在まで保存され、伝達されていくということではなさそうである。
