インタビュー急接近:大山建司さん 性分化疾患に、どう立ち向かいますか

インタビュー急接近:大山建司さん 性分化疾患に、どう立ち向かいますか

 ◇性別は絶対的ではない−−日本小児内分泌学会・性分化委員会委員長、大山建司さん(63)
 ――「性分化疾患」。聞き慣れない用語ですね。
 ◆性別という人の生き方そのものにかかわってくる病気です。従来は半陰陽、両性具有などとも呼ばれましたが、蔑称(べっしょう)の印象があるので日本小児内分泌学会では10月から新しい総称に統一しました。
 ――どんな病気ですか。
 ◆性別は出生時の性器の形で簡単に見分けられると思われがちですが、それは典型的な男女の場合です。実際には人の性別は、染色体の性、性腺(卵巣、精巣)の性、性器の性、社会的(戸籍の)性、脳の性などから成り立ち、それが一致しないのが性分化疾患です。例えば性器は男性型でも卵巣や子宮がある人もいます。さらに「染色体の性」と一言で言っても、性染色体の型は一般的に知られる「女性はXX、男性はXY」だけでなく、細胞によって両方がモザイク状に入り交じる人、XXYの人、XYYの人もいます。病態は複雑多様で、遺伝子変異が解明された病気だけでも70を超えます。
 ホルモンの分泌異常などで健康上の問題が起きたり、典型的な男女の枠に収まらないことで社会生活上の不都合が出てくることもあります。性分化疾患は、身体的には男性または女性に問題なく分化していながら、脳(心)が自覚する性との食い違いで悩む性同一性障害とは別の病気です。
 ――約2000人に1人の発症率とも聞きますが、出生時に分かるのですか。
 ◆小児期や思春期になってから顕著な低身長や第2次性徴が来ないことで判明する病気もありますが、現在特に重視しているのは、出生時に見逃さなければ適切な医療対応が可能になるケースです。「性別決定」という人生の重大事にも直接かかわります。
 出生時に性器の発達が未熟な場合は性分化疾患が疑われるので、出産に立ち会う医師や助産師は、性別に少しでも疑念が生じた場合は安易に「男の子でしょう」などと告げてはいけません。ご両親にはまず「しっかり検査をしましょう」と説明します。そして、適切な対応がとれる専門の医療機関と連携し、場合によってはすぐに送る。体制が整っている施設は全国に数カ所しかありませんが、差し迫った健康上の問題がなければ遠隔地からでも移送できます。
 ――全国に数カ所しかないのですか。
 ◆最近十数年で原因解明が随分進みましたが、まだまだ診断・治療は容易ではありません。さらに、疾患名が確定しても性別は自動的には決まりません。程度を見極めて判断しなくてはならず、それには症例経験がものをいいます。未発達な性器は手術で整えることになるので小児泌尿器科などの外科的スタッフは不可欠で、家族を心理的にサポートする専門家も欲しい。それらがチームで長期的に支援できる施設となると数は限られます。多くの施設が半端な体制のまま対応すれば、医療レベルが落ちて、患者にとっても好ましくありません。
 ――今後の課題は。
 ◆戸籍上の性別は少なくとも現在の日本の社会では欠かせないので、生後速やかに決めなくてはなりません。しかし成長に従い、手術やホルモン治療で近づけた性と自分が感じる性とが食い違ったり、いずれの性にも属さない感覚にとらわれる患者が一定割合で出てくるのも現実です。内面の理解に努め、長期的な支援策を考えねばなりません。
 患者が生きやすい人生を送るには、一般的に考えられているほど性別は単純で絶対的なものではないという共通理解が欠かせません。社会への啓発も専門家の務めと考えます。【丹野恒一、写真も】
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 ■人物略歴
 ◇おおやま・けんじ
 慶応大医学部卒。80年、医学博士。98年、山梨医科大教授。03年、山梨大大学院医学工学総合研究部教授。専門は小児科学、内分泌学(思春期内分泌学、性成熟、性分化)。

[毎日新聞社 2009年11月27日(金)]