『性別に違和感がある子供たちートランスジェンダー・SOGI・性の多様性ー』

「『性別に違和感がある子供たちートランスジェンダー・SOGI・性の多様性ー』」拝読。
子供に焦点を当てている本邦初の専門書。
大阪医大の精神科の先生方の共著。
性別に違和感のある子供たちへの専門的視点と人間的愛情にあふれた良書。
バランスもとれて、専門的なことを平易に解説している。


あとがきで拙著も紹介していただいたので、ゆるくほめようて終わろうと思ったが、気になる箇所が数点あるため、やはり突っ込む。


1. ジェンダーの定義
P27に、ジェンダーの構成要素として、gender identity、性役割と並んで、「性指向」とある。謎なので、引用文献を見たら、中塚先生の「性同一性障害 : 子どもの頃の当事者と診療の実際 (特集 小児科外来における思春期診療の実際)」
http://ci.nii.ac.jp/naid/40020904347
とあった。
元の中塚論文を読んでいないの、ますます謎だが。
はたとネタ元に気付いた。
1981年の、小此木、及川論文である。(小此木啓吾,及川卓 1981性別同一性障害 懸田克躬ほか編 現代精神医学大系第8巻人格障害・性的異常 中山書店)
その中で、性別同一性の構成要素として、「中核的性別同一性」「性役割」「性指向」とある。
たぶん、それがそもそものネタ元である。
小此木、及川先生の1981年の精神分析ジェンダー理論が、いまだ日本の本流の専門家に流布していたとはちょっとショックだった。
P85の表7−1は、「ジェンダーアイデンティティ」として、薬師君たちのLGBT本からの引用で「性自認性的指向」の図があった。もともとの図は、この二つは違うものです、という意味であるし、引用も多分そういう意味なのだろうが、解説がないために、素人が読むとこの2つがジェンダーアイデンティティのように読めてしまう。


本全体としては、ジェンダーアイデンティティと性指向は分けて考えているようだが、共著のためか、時々このような混乱が混じるのが残念。


2.「歴史から見る性別違和」
あとがきでもふれているように、三橋順子さんの御著書等を参照し、この歴史は書かれている。ただし、三橋さんが語っているのは「女装」の歴史であり、「性別違和」の歴史ではない。
歴史上、女装していた人を「性別違和」と病理概念で語るのは、三橋さんの趣旨とも異なるだろう。
せめて「歴史から見るトランスジェンダー」くらいにすればよかったのに・・


3.「同性愛の疫学」
同性愛の人口中の割合を論じるときに「疫学」という言葉を使っている。疫学は基本的には病気に対して使う言葉。せっかく一章を使って、同性愛の脱病理化の話を書いているのに、「疫学」は残念。まあ医療用語で悪意なく使ったのだと思うし、必ずしも病気でなくても使う場合もあるかもしれないが、誤解を招きかねないのでは。


4.SOGI?
本のタイトルにSOGIがあるが、本文中に説明がなかった。私の読み落としかもしれないが・・

性別に違和感がある子どもたち (子どものこころの発達を知るシリーズ 7)

性別に違和感がある子どもたち (子どものこころの発達を知るシリーズ 7)