戸籍上は男性…保険証表記を女性名に変更 京都の経営者

2017.2.7.京都新聞
http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20170207000016
戸籍上は男性…保険証表記を女性名に変更 京都の経営者

「私が私として生きるための第一歩」−。心と体の性が一致しない性同一性障害のため女性への性別適合手術を受けたが、法の規定で戸籍を男性から女性に変えられない京都市の50代企業経営者が、国民健康保険の被保険者証の戸籍名表記について、日常使う女性名への変更を実現した。厚生労働省によると珍しいケースとみられ、当事者らでつくる「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」(東京)は「公的書類の氏名表記で選択肢が広がり、大きな前進だ」と指摘する。

 経営者は2012年に性同一性障害と診断され、14年に女性への性別適合手術を受けた。しかし性別変更について定めた性同一性障害特例法にある「未成年の子がいない」などの要件を満たさず、戸籍で性は男性のまま。名前も家族との関係から男性名を維持した。

 同様の記載だった被保険者証では女性の外見と一致せず、病院の受付で「他人の被保険者証は使えません」と言われたり、男性名で呼ばれ周囲から視線を浴びたりして、精神的苦痛を感じてきた。そのため15年8月から、国民健康保険組合に女性名への変更希望を粘り強く伝え、組合は厚労省に変更の是非を照会した。

 厚労省によると、国民健康保険の被保険者情報は戸籍の内容と一致する住民基本台帳を基礎とするが、同省はこのような照会が初めてだったため内部協議した。外国人の通称名記載に関して11年に出した「(市町村など)保険者の判断で氏名表記を行ってもよい」との事務連絡を踏まえ、昨年7月に経営者の名前変更も「差し支えない」と回答。経営者は翌月、組合から女性名記載の被保険者証を交付された。

 表面の性別欄も「男」と表記されていたのを、12年の厚労省連絡に従って「裏面参照」とし、裏面に「戸籍上は男」と変更した。

 経営者は「新しい被保険者証は身分証明にも使え、1人の人として認められるようになったと感じる」と喜び、「保険者の理解不足で、変更を諦めている性同一性障害者は多いと思う。私の事例を機に声を上げてもらえれば」と期待する。

 厚労省によると、会社員らが加入する健康保険に関しても「保険者の事務に問題がなければ、氏名変更に支障はない」という。


2017.2.7 毎日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170207-00000011-mai-soci
性同一性障害  保険証、「通称名」容認
心と体の性が一致しない性同一性障害GID)と診断され、戸籍上は男性だが女性として生活している京都市の50代の会社経営者について、京都府酒販国民健康保険組合が、保険証に通称の女性名を記載することを認めていたことが6日、分かった。支援団体によると、公的な身分証明書にもなる保険証で通称使用が認められるのは極めて珍しい。経営者は「私たちがストレスなく社会生活を営むうえで大きな前進」と話している。

 経営者は2012年にGIDと診断され、14年春に性別適合手術を受けた。ホルモン治療を受け、化粧をするなど普段から女性として暮らしている。子どもがいるため、戸籍上の氏名は日常生活への影響を考えて変更していない。

 このため、医療機関で受診すると男性名で呼ばれたり、「他人の保険証は使えない」と言われたりした。人間ドックでは男性用の更衣室に案内され、心理的ストレスを抱え続けてきた。

 経営者は15年8月、加入する府酒販国民健康保険組合に女性名への変更を相談。組合が厚生労働省に照会したところ、「保険者(=組合)の判断で氏名表記して差し支えない」との回答を得たため、16年8月、女性名に変更した。

 GIDの人たちが保険証に表記する性別を巡っては、厚労省が12年、戸籍上の性別を裏面に記載すれば、表面は「裏面参照」と記載してもいいとの判断を示した。

 だが氏名についての規定がなく、これまで経営者の保険証には住民基本台帳に基づいて男性名が記載されていた。今回の女性名表記について、厚労省は「性同一性障害を持つ人々に配慮できる方法を内部で検討し、(組合に)回答した」としている。

 氏名変更は家庭裁判所の許可を得て戸籍を変えれば可能だ。だが今回の経営者のように、さまざまな事情を抱えているため手続きを取らず、通称を使っているGIDの人たちも多いとみられる。【岡崎英遠】

 ◇大きなメリット

 GIDの当事者らで作る一般社団法人「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」のメンバーで臨床心理士の西野明樹さん(30)の話 これまで保険証の氏名は改名しない限り、変更できないという認識だった。適合手術を受けていないGIDの人にとっても、大きなメリットになるのではないか。