性別変更男性を「父」に=法務省、自治体に通知へ

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131211-00000175-jij-pol
性別変更男性を「父」に=法務省自治体に通知へ
時事通信 12月11日(水)23時31分配信

 法務省は11日、性同一性障害のため女性から性別変更し男性となった夫の妻が第三者精子提供で子をもうけた場合、性別変更した「夫」を戸籍上の父として扱うよう市区町村に通知する方向で検討に入った。最高裁が10日付で示した判断を踏まえた措置。
 従来は法律上の夫婦の子(嫡出子)として出生届が提出されても、「夫」に生殖能力がなく嫡出推定が働かないため、子の戸籍の父の欄を空欄として処理していた。これに関連し、同省関係者は「対応を変えざるを得ない」と述べた。



産経
性同一性障害訴訟」決定要旨
 性別を変更した夫とその妻が第三者との人工授精でもうけた子について、最高裁が嫡出子と認めた決定の要旨は次の通り。
 【原審の判断】
 東京高裁は、(1)法律上の親子関係は血縁関係を基礎とし結婚を基盤にして決められる(2)民法の規定は、妻が結婚中に妊娠した子を嫡出子と推定することで家庭の平和を維持し夫婦の秘密を守るとともに、父子関係を早期に安定させるためのものだ−と指摘。その上で、性別変更した夫との間に血のつながりがないのが明らかな場合は嫡出子と推定できない、と判断した。
 【最高裁の判断】
 性同一性障害特例法(特例法)では、性別変更の審判を受けた人は、法に別段の定めがない限り、変更後の性別と見なして民法その他の法令が適用される。女性から男性に変更した人は、夫として結婚できるだけでなく、結婚中に妻が妊娠した場合は、民法772条の規定で嫡出子と推定されるというべきだ。
 最高裁判例では、妻が妊娠した時期に事実上離婚して夫婦の実態が失われるなど、夫婦が性的関係を持つ機会のなかったことが明らかな場合は嫡出子と推定できない、としている。
 性別変更した夫は妻との性的関係で子をもうけることは想定できないが、結婚は認められている。嫡出推定の適用は結婚の主要な効果で、血のつながりがないのが明らかだとの理由でそれを認めないのは不当だ。
 そうすると、夫婦が嫡出子として出生届を出したのに、夫が性別変更して血のつながりがないからという理由で嫡出子と認めず、戸籍の「父」の欄を空欄にすることは許されない。
 【寺田逸郎裁判官の補足意見】
 結婚と嫡出推定の仕組みは強く結び付いており、次世代に継承する家族をつくるという目的を中心に据えた制度。特例法に基づき結婚を認めたということは、血縁とは切り離された形で嫡出子をもうけ家族関係をつくるのを封じないことにしたと考えるほかない。
 【木内道祥裁判官の補足意見】
 高度化する生殖補助医療など民法の立法当時に想定しない事態が生じている。最善の工夫を盛り込むことが可能なのは立法による解決だが、現状では特例法、民法で解釈上可能な限り、そのような事象も現行の法制度の枠組みに組み込み妥当な解決を図るべきだ。
 【岡部喜代子裁判官の反対意見】
 民法の嫡出推定は性的関係により妊娠することが根拠。その機会がないことが生物学上明らかで、その事情が法令上明らかな人には推定が及ぶ根拠がない。
 【大谷剛彦裁判官の反対意見】
 特例法の制度設計では、性別変更した人が遺伝的な子をもうけることは想定されていない。願望は理解できるが、生殖補助医療による法的な問題は、生命倫理などを多角的に検討し、立法により解決すべきだ。裁判で父子関係を認めれば制度整備もないまま民法の解釈を踏み出すことになる。


[産業経済新聞社 2013年12月12日(木)]


http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131211/trl13121123570007-n1.htm
新たな家族、実態重視 最高裁初判断 法整備含め議論必要
 戸籍上の性別を変更した性同一性障害の男性と、第三者精子でもうけた長男を「父子」と認めた10日付の最高裁第3小法廷決定は、裁判官5人中、大谷剛彦裁判長ら2人が反対意見を述べるなど、僅差での結論となった。多数意見は医療の進歩などで家族の在り方が多様化する中、血縁関係がないことが明白でも、家族としての社会的実態を重視した形だった。
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 民法の嫡出推定規定は子の身分関係を早期に安定させるために設けられたとされ、強力な効果を持つ。ひとたび「夫の子(嫡出子)」と認められれば、これを取り消す「嫡出否認」の訴えを起こすことができるのは夫のみ。期間も「夫が子の出生を知ったときから1年以内」に限られる。
 小法廷の議論を分けたのは、性別変更を認めた性同一性障害特例法の「効果」が及ぶ範囲の捉え方だ。
 戸籍訂正を認めた3人は特例法で結婚が認められた夫婦の間の子には通常の夫婦と同様、法律婚の「主要な効果」である嫡出推定が適用されると判断。寺田逸郎裁判官は補足意見で「血縁関係上の子を作ることができない男女に特例で結婚を認めた以上、血縁がないという理由で法律上の父子関係を否定することはない」との解釈を示した。
 一方、反対意見の岡部喜代子裁判官らは「特例法は親子関係の成否に触れていない」と特例法の効果を限定的に解釈した。
 法務省によると、今回の決定の当事者と同様に、性別変更をした男性の妻が実際に出産したケースは、これまで39件を確認。その意味で決定が及ぼす直接的な影響は限定的ともいえるが、平成16年以降、性別変更を認められた人だけで3500人超に上る。
 法曹関係者の一人は「父子関係が認められないことを理由に、子を持つか悩んでいるカップルに影響が広がる可能性がある」とみる。
 だが、大谷裁判長は反対意見で、今回のようなケースで父子関係を認めれば「現在の民法の解釈の枠組みを一歩踏み出すことになる」と指摘。さらに「本来的には立法で解決されるべき問題に、制度整備もないまま踏み込むことになる」と述べたように、議論が尽くされたとは言い難い。
 第三者からの卵子提供や代理母出産など、生殖補助医療の発展に伴い、現行法の想定しなかった「新たな家族」は次々と誕生している。法整備も含めた早期の議論が求められている。
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 ■子供に思慮欠く判断
 東北大学法学部の水野紀子教授(家族法)の話「親子関係はさまざまな要素を踏まえて慎重に判断すべきだが、今回の最高裁は形式的な三段論法で結論を出してしまった。性同一性障害者が人工授精でもうけた子供は成長して、父を父と信じられないため苦悩を抱えることになる。将来生まれてくる子供に対する思慮を欠いた判断だ」
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 ■規定沿っていて妥当
 立命館大学法学部の二宮周平教授(家族法)の話「性同一性障害特例法4条では、性別の取り扱い変更の審判を受けた人は、法令適用も『他の性別に変わったものとみなす』と明記されている。この規定に沿った妥当な判断だ。『本来的には立法で解決されるべき問題』との反対意見もあったが、進まない法整備を待っていては、親子関係が定まらないまま、子供の不利益が続くことになる。今回の判断により、性同一性障害の家族が通常の夫婦、通常の親子という考えが一般にも浸透していくだろう」
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【用語解説】嫡出推定
 民法772条は、妻が結婚中に妊娠した場合、嫡出子(夫の子)と推定すると規定。結婚から200日経過後、または離婚や夫と死別した日から300日以内に生まれた子も、結婚中に妊娠したと推定する。母子関係は出産という外観的な事実から確定できるが、父子関係は直接の証明が難しく、推定によって家庭の平和を維持し、子の法的地位の早期安定を図る目的とされる。


[産業経済新聞社 2013年12月12日(木)]


質問なるほドリ:性同一性障害って?=回答・和田武士
 ◇心身の性別一致せず 変更申し立て3738件
 なるほドリ 性同一性障害(せいどういつせいしょうがい)のために女性から男性に性別を変更した人を最高裁が「父親」と認めたそうだけど、性同一性障害ってどういうものなの?
 記者 身体的な性別と心理的な性別が一致せず、強い違和感に苦しむ疾患のことです。英語のジェンダーアイデンティティー・ディスオーダーの頭文字を取ってGIDとも言われます。精神科的な治療だけで改善するのは難しいと言われ、男性ホルモンや女性ホルモンの投与を受けている人も多くいます。
 Q 性別は変えられるの?
 A 2004年7月に「性同一性障害特例法」が施行され、戸籍の性別を変更することが認められるようになりました。(1)2人以上の医師の診断がある(2)20歳以上である(3)結婚していない(4)未成年の子がいない――といった条件を満たす場合に、性別変更を求めて家裁に審判を申し立てることができます。
 Q 性別を変えた人はどのくらいいるの?
 A 最高裁によると、特例法に基づく性別変更の申し立ては、04年は130件(7月以降)でしたが、年々増加していて、昨年は742件に達しました。累計では計3738件に上り、大半の申し立てが認められています。また、法務省によると、今回のケースのように、特例法に基づいて性別変更した夫の妻が第三者から精子の提供を受けるなどして出産したケースは計39件(12月11日現在)あります。しかし、父子関係が認められた事例は一件も確認されていません。
 Q 父親だと認めた最高裁の判断の影響は大きそうだね。
 A 他の裁判所の判断基準を示す最高裁が初めて出した決定ですから、他の同様のケースにも適用されることになります。今後、「父」の欄が空白になっている戸籍の訂正を申し立てる動きが相次ぐ可能性もあります。法務省民事局は「決定の内容を精査しており、現時点では対応についてコメントを控える」としています。(社会部)



[毎日新聞社 2013年12月12日(木)]



クローズアップ2013:性別変更の「父」認定 血縁より家族重視
 ◇裁判官意見、3対2 第三者精子提供、一般夫婦に影響も
 性同一性障害GID)のため性別を女性から男性に変更した夫とその妻が第三者からの人工授精でもうけた子について、最高裁が嫡出子(法律上の夫婦の子)と認める決定を出した。「画期的な判断」と当事者らからは歓迎の声が上がるが、裁判官5人の意見は賛成3人、反対2人と分かれ、高度化する生殖補助医療に法整備が追いついていない現実が浮き彫りになった。
 「性同一性障害特例法に基づき結婚を認めたということは、血縁と切り離した形で嫡出子をもうけて家族関係をつくることを封じないことにしたと考えるほかない」。多数意見に同調した寺田逸郎裁判官は補足意見でそう指摘した。最高裁決定は生物学的な血縁関係より、実質的な家族関係の形成を重視し、性的マイノリティーの権利を尊重した。
 これに対し岡部喜代子裁判官は「夫に男性としての生殖能力がないことは生物学上も法令上も明らかで、民法の嫡出推定が及ぶ根拠はない」と反対し、裁判官の間で鋭い意見の対立があったことをうかがわせる。
 今回のケースでは、夫が特例法に基づき性別変更したために、役所側が戸籍を見てその事実を把握し、嫡出子と認めなかった。だが、生まれながらの男女の夫婦が非配偶者間人工授精(AID)で子をもうけた場合、第三者から精子の提供を受けたことを役所は把握できず、血縁関係がないにもかかわらず実務的には嫡出子として扱われる。
 最高裁決定は、今回の夫婦のような人たちが抱く「不公平感」を解消することになりそうだ。一方で、AIDを選択した一般のカップルにどこまで決定の影響が及ぶかは意見が分かれる。
 吉村泰典・慶応大教授(産婦人科学)は「生物学的な血縁関係を求める従来の判断は、これまでに生まれた約1万5000人のAIDの子が非嫡出子になる可能性があり、疑問だった」と指摘。二宮周平立命館大教授(家族法)も「決定はそうした夫婦にも安心感を与えるものだ」と見る。
 だが、性的マイノリティーの問題に詳しい本多広高弁護士(東京弁護士会)は「生まれながらの男女の夫婦にも決定の趣旨が直ちに及ぶかは疑問だ。裁判官の間で議論があったと推察されるが、嫡出推定を及ぼすか及ぼさないかの判断はペンディングされていると思う」と語った。【和田武士】
 ◇当事者ら歓迎の声
 性同一性障害の当事者や支援者らからは最高裁決定に歓迎の声が上がった。
 当事者団体「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」(東京)の山本蘭代表は「本当に良かったの一言に尽きる」と喜んだ。「非配偶者間の人工授精で生まれた子供は嫡出子として認められることになる。性同一性障害に限らず、生殖補助医療全般にとって画期的な決定だ」と話した。
 GID学会理事長で産婦人科医の中塚幹也・岡山大大学院教授は「当然だが、本当に期待していた決定だった」と評価。その上で「性別を変えたことが戸籍ですぐに分かってしまうこと自体が問題だ。記録に残す必要はあるとしても、行政の窓口担当者が一見して分かる仕組みではおかしい」と指摘した。
 前GID学会理事長の大島俊之弁護士は「極めて常識的で妥当な決定」と冷静に受け止め、「法務省は、別のケースでも今回の決定の趣旨に沿って嫡出子としての届け出を受理すべきだ」と話した。【山寺香、江口一】
 ◇法整備、手つかず−−生殖補助医療での親子関係
 不妊カップルの治療を目指す生殖補助医療技術の進歩に伴い、家族関係も複雑化している。法相の諮問機関・法制審議会での親子関係に関する議論は、2003年に中間報告を出したまま止まっている。決定は、立法が追いついていない現実に一石を投じた司法判断と言える。
 反対意見を付けた大谷剛彦裁判長は「(今回)父子関係を認めることは、現在の民法の解釈の枠組みを一歩踏み出すことになる」と述べた。AIDや、卵子精子を体外に取り出す体外受精などの生殖補助医療は、妊娠に不可欠な「受精」という現象に、人が手を加えたり、第三者が関わったりすることを可能にした。従来の法制度は、それらを想定せず、現実が先行する形になっている。第三者卵子精子体外受精で使えば、卵子が老化した高齢女性や無精子症の男性も子を持つことができる。カップルの受精卵を第三者の女性の子宮に戻す代理出産も登場した。
 日本産科婦人科学会は、AID以外の第三者が関わる生殖補助医療を認めていないが、1990年代後半から長野県のクリニックが卵子提供や代理出産を実施し、国内で認められない治療を海外で受ける例が相次いでいる。最近は、生殖補助医療クリニックの団体が独自に卵子提供を実施し、民間団体がボランティアの卵子提供者募集を始めた。独身女性が将来の妊娠に備えて卵子を凍結保存したり、凍結保存した夫の精子を夫の死後に体外受精に使ったりするなど、カップル以外の利用も広がりつつある。
 国内には法律だけではなく、第三者が関わる生殖補助医療に関する公的規制もない。このため、「だれを法的に母や父とするか」という疑問に答えるルールがなく、親子関係が複雑化して生まれてきた子の立場が不安定になっている。厚生労働省部会の報告書(03年)、日本医師会検討委(今年2月)などは、生殖補助医療での親子関係を明確化する法整備を求めたが、法制化は先送りされてきた。
 今年10月、自民党は第三者が関わる生殖補助医療の法律を検討するプロジェクトチームを設置。卵子精子の提供ルールとともに、親子関係を規定する民法整備の検討を始めた。
 生命倫理に詳しい〓島(ぬでしま)次郎・東京財団研究員は「今回の決定が第三者が関わる生殖補助医療を後押しするものと受け止めるべきではない。血のつながらない養親・子への不当な偏見や差別をなくす動きにつなげていくべきだ」と話す。【永山悦子、斎藤有香】


[毎日新聞社 2013年12月12日(木)]