世界中で苦しむ性同一性障害「この世の地獄」…6歳男児を女児にしたアルゼンチン

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131014-00000553-san-int

世界中で苦しむ性同一性障害「この世の地獄」…6歳男児を女児にしたアルゼンチン
産経新聞 10月14日(月)18時55分配信

 男から女になる−。性別を変更するには理由があり、法的な「根拠」が必要になる。アルゼンチンで9月、男性として生まれた6歳の子供の性別と名前の変更が司法の判断を得ることなく認められた。地元メディアは、司法の判断なく、性別変更が認められたのは世界初だと伝えているという。確かに、日本では2人以上の医師が性同一性障害だと診断することなどが条件となっており、考えられない事態だ。性別変更を考える。

■「男じゃない、わたしは女よ」

 ロイター通信や地元メディアなどによると、性別変更が認められたのは、2007年に双子の「男児」の一人として生まれたマヌエル君。ただ、母親のガブリエラさんによると、言葉を発し始めたころから、「自分は女の子だ」と主張していたという。両親は昨年、両親は12年12月に性別と名前の変更をブエノスアイレス州政府に求めた。

 当然ながら州政府は却下した。14歳以下の性別変更には司法の承認が必要だったからだ。それでも、両親はその後も大統領に手紙を出したり、児童保護当局に訴えたりするなど繰り返し変更を求めた。

 結局、州知事は今回のケースを特例として認め、州政府が9月25日に身分証明書を女性に書き換える決定を下した。名前も両親が求める通り、ルアナちゃんと変えた。

 カトリック教会の影響が強い中南米で初めて同性婚を認めたアルゼンチンは、性のあり方について先進的な取り組みを行っており、今回の決定はその影響もあるとされる。今回の裁判にかかわった心理学者はメディアに対しこう述べている。

 「身分証明書は鏡のようなものです。(だからこそ)もし一人の人間の個性そのものがないなら、やはり良くない」

■6つの条件に該当しなければ認められない日本

 日本の場合、性別変更はどうすれば可能になるのだろうか。

 家庭裁判所性同一性障害者で、(1)2人以上の医師が性同一性障害であることを診断(2)20歳以上である(3)未婚(4)未成年の子がいない(5)生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にある(6)他の性別の性器の部分に近似する外観を備えている−というそれぞれに該当する人について性別変更を認めている。

 性別変更の要件は厳しく、実際に、性同一性障害のため女性から性別を変更した男性(31)が、第三者から精子提供を受けて妻(31)との間にもうけた次男(1)について親子関係の確認を求めた訴訟の判決では、大阪家裁の久保井恵子裁判官が「妻が男性との性的交渉により次男を妊娠することが不可能なのは明らかだ」として、請求を棄却している。

 判決で久保井裁判官は「民法は自然生殖では発生しない父子関係を想定しておらず、法律上認められない」と指摘。性別変更した場合は戸籍に記載が残るが「(生来の男性の)戸籍からは非配偶者間人工授精で妊娠したことが分からないため、形式的に認定しているにすぎない」と退けている。

■人生の新たなステージ

 性同一性障害に悩み、それが?事件?へと発展したケースもある。

 内部告発サイト「ウィキリークス」に70万件以上の機密情報を漏洩したとして、米軍事法廷で今年8月、禁錮35年を言い渡されたブラッドリー・マニング陸軍上等兵(25)は、性同一性障害に悩んでいたとされる。判決後、マニング受刑者は米NBCテレビ宛てに書簡を送り、その中でこう述べている。

 「(禁錮刑の判決で)私の人生は新たなステージに入りました。これを機にみなさんに本当の私を知ってほしいのです。私はチェルシー・マニング。女性です…」

 マニング受刑者は2010年のイラク派遣時に性同一障害と同性愛志向に悩み、その苦しみを上司に訴えていた。事件発覚後は、性転換のためのホルモン療法を望んでいるといい、欧米主要メディアは、ブロンドの女性用のかつらをかぶり、口紅を塗るなどして女装した写真を公開した。

 マニング氏だけでなく、米CNNは、カリフォルニア州の刑務所で全入所者16万人のうち330人が性同一障害で悩んでいるという研究機関の調査を伝えた。米国では性同一障害に悩む受刑者に税金を投じて性転換手術を受けさせることの是非をめぐり、複数の裁判が起きているとされる。

 社会の中でさまざまな形で「性別」について悩んでいる人が多い。そしておそらくルアナちゃんは幼いころからあらゆる場面で傷ついていただろうし、またマニング受刑者は、ストレスから犯罪に手を染めてしまったのではないか。

 ルアナちゃんのケースで、アルゼンチンの支援団体の代表者はこう述べている。

 「(アルゼンチンには)何千ものルアナちゃんがいる。しかも彼らはいまもの、自身の自己同一性を両親に認められていない。自己を侵害された、ひどい人生を送っているのです」