(働く)性的少数者の思い:2 本当の自分、隠さない

朝日.7.19
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201307180533.html
(働く)性的少数者の思い:2 本当の自分、隠さない


自分が男性同性愛者のゲイであることは、母親には高校時代に伝えていた。埼玉県の食品メーカー工場に勤める総合職の男性(25)は、昨年4月に就職する前、その母に言われた。
 「会社には、ライバルもいる。弱みを見せる必要はないから、カミングアウトはしない方がいい」
 学生時代は、近い友人には伝えていた。でも、これからは競争社会。社会人の知人から「結婚しないと出世できない」と言われ、「擬装結婚すべきなのかな」と思ったこともある。母の助言は「その通りだ」と思ったから、会社では言わないつもりでいた。
 でも、いきなり計画は狂った。新人研修で女性同期に好意を寄せられ、言ってしまった。「やっぱり、親しい人には知っておいてほしい」。学生時代までの思いが、よみがえってきた。
 昨年秋、まず同じ職場の同期に飲み屋で伝えた。「え、ほんと!」の後、「(打ち明けてくれて)ありがとう」と言ってくれてうれしかった。その後も、心を許せる同期には個別に伝えた。「何だか距離を置いているなと思ったけど、謎が解けたよ」と笑う同期たち。ちょっと心配しすぎだったかなと思った。
 今年2月、初めて同期以外で打ち明けた入社4年目の先輩男性には言われた。「俺は大丈夫だけど、抵抗感が強い人もいる。あまり言わない方がいいよ」。これも自分のための助言とうれしかったが、もう、自分のスタンスを変えようとは思わなかった。以前ほど、仕事上の損得など気にならなくなっていたからだ。
 会社には「君、オカマ?」と公然と尋ねるような、無神経な上司もいた。「なにがグローバル企業だ」とあきれ、仕事のために自分を押し殺すことが、ばからしくなった。そんな上司には伝えたくもないし、出世のための擬装結婚など、今はしたくない。
 逆に、「この人なら」と思える人には、仕事上のリスクがあっても伝えたいと思うようになった。だから5月、仲良しの後輩2人にカミングアウト。いつも工場で「彼女できた?」と声をかけてくれる仲良しの50代のパート女性にも、近く伝えるつもりだ。
 「個別の人間関係を通じて一人ずつ、一歩ずつ理解を広げたい。それが、これからも僕のスタンスです」
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 それぞれのやり方で職場でのカミングアウトに臨む、性的少数者たち。最初から、何も隠さずに働く人もいる。
 都内の高齢者向けサービス会社で働くジュンさん(23)は、身体は女性だが心は違う「トランスジェンダー」と呼ばれる性的少数者だ。男性という意識が特に強いわけではないが、確かなのは「女ではない」こと。男性用トイレを使い、仕事中はスーツにネクタイ姿。社内外でカミングアウトし、いきいきと働く。
 高校生までは「働けるとしても夜の世界かな」と悩んでいた。でも大学の学園祭実行委員会で、男女など関係なく仲間と一丸となって働いた体験が自分を変えた。「性別にとらわれているのは周囲ではなく、『普通に働けない』と思い込んでいた自分だと気づいた」
 自分の経験から、「誰かが『その人らしく』生きられるお手伝い」をする仕事に就きたいと思った。そのためには自分が自分らしく働く必要があるし、この話を避けたら志望動機は語れない。何も隠さず就職活動しようと決めた。
 企業の担当者には、最初から「うちは無理」と及び腰の人も。そんな会社は願い下げだった。志望動機として、ほかの経験と同様に捉えてくれる企業を受け、5社から内定をもらい今の会社を選んだ。入社前の内定者参加の行事の時、人事に相談したうえで、全社員に伝達。当時からざっくばらんに接してくれる同僚とは、今は恋の話もできる。
 新人の頃、営業相手に「親に申し訳ないと思わないか」と怒鳴られた時は、さすがに泣いた。でも大半の人は理解し、逆に覚えてもらえて契約を取れたことも。今は、何も悩みはない。
 「何か隠したり、気を使ったりしながら働くのは誰でもつらいし、パフォーマンスに響く。今は100%、仕事に集中できている」
 カミングアウトが常に正しいとは思わない。でも、昔の自分のように悩める後輩には知ってほしい。「ボクのように、ありのままを伝えてハッピーに働いている人もいるんです」(吉川啓一郎)