【自殺考 命を救う現場(4)】少数派の悩み受け止め…性同一性障害の人たち

サンケイ 2012.11.10
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/121110/wlf12111013320013-n1.htm
心と体の性の不一致に悩む


 「本当は黒のランドセルを背負いたかったんです」

 ショートの黒髪、メガネをかけた優しい表情の青年が、自らの生い立ちを語り始めた。

 同性愛者や性同一性障害など、異性愛社会で少数派の性的マイノリティー。現在、その少数派の人たちの自殺防止に取り組む「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」(東京)の共同代表を、遠藤まめたさん(25)=活動名=は務める。

 遠藤さんは女性として生を受けた。小学生のころ、赤色のランドセルを持つことに違和感を覚え、一人称も「ボク」や「オレ」でとおした。

 15歳のとき、インターネットの検索で「性的マイノリティー」という言葉を知り、16歳のとき初めて自覚した。「女子用の制服を着たくないと教師や親に話しても、聞く耳を持ってもらえませんでした。ただ、そんな私の悩みを友達が聞いてくれた。友達に話せただけ、恵まれていたと思います」


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 心と体の性の不一致に悩む性同一性障害は1万〜3万人に1人いるといわれている。周囲の無理解や偏見で追い込まれ、自殺の危険性が高くなる「ハイリスク群」として、今年8月の国の改正自殺総合対策大綱に初めて対策の必要性が明示された。遠藤さんらが国に働きかけた結果だった。

 宝塚大学の日高庸晴准教授(医療行動科学)が大阪・ミナミのアメリカ村で約2千人を対象に行った街頭調査によると、男性の同性・両性愛者の自殺未遂経験は異性愛者の約6倍だった。

 実際、遠藤さんの周囲にも、命を落とす仲間がいた。

 一人は女性に生まれ、数百万円ともいわれる性転換手術の費用を稼ぐことに一生懸命だった。高校の制服が着られず不登校になり、退学。「本当は辞めたくなかった、といつも言っていました。小さいときからいじめも受けていた。その悔しさからか、バイトの励みかたが病んでいた」と振り返る。念願の手術を受けたが、その後、目的を見失ってしまったかのように、21歳で自ら命を絶った。

 睡眠薬などの過剰摂取(OD)で亡くなった友人もいた。普段からODを繰り返しており、その日も死ぬつもりはないまま、死んでしまったのではないか、と遠藤さんは考えている。

 自分が性的マイノリティーではないかと自覚するのは思春期に入るころといわれている。自らの所作や好みに対し「女々しい」「女らしくしなさい」などといった言葉にさらされるようになるのもこの時期だ。成長過程で直面する強烈な自己否定と深い孤独。
 アメリカでは、10代の自殺のうち、3人に1人は性的マイノリティーに関する悩みが原因といわれている。「10代の子供たちは生活しているコミュニティーが狭い。仲間と知り合うことができず、悩みを打ち明ける場も持てず、早い段階で死ぬことを考えてしまう」と遠藤さんは訴える。周囲に告白しても、家族関係が破綻するなど、強いストレスで鬱病を発症するケースも多いという。


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 最近、性的マイノリティーを支援する動きが出てきている。インターネットによる、コミュニティーサイトの拡大や、性的マイノリティー専用の相談回線がある「よりそいホットライン」(一般社団法人・社会的包摂サポートセンター)の開設だ。自分の悩みを外に向けて発信できる場はわずかながら増えている。

 遠藤さんの活動は、当事者による講演活動のほか、電話相談を行う行政などの窓口に、性的マイノリティーへの正しい知識を持ってもらうための勉強会なども行う。心を許し、会話ができる場を増やしたいと遠藤さんはいう。思い詰め、極端に振り子が振れてしまわないように、仲間たちを救うのが目標だ。