性同一性障害の夫婦による嫡出子出生届をめぐる法律問題(下)
法律時報 84(11), 70-77, 2012-10
P71
>学説・判例・戸籍実務が、夫の同意のあるAID出生子と夫との嫡出親子関係の存在を認めるに至った以上、本件における申立人父と長男との間の嫡出父子関係の存否の判断の選択肢は一つしかない。それを肯定する選択肢しか残されていない。
P72
>本件のような事例は、まさに嫡出推定制度が保護しようとしている家庭の平和や早期の父子関係の安定が、強く要請されるのである。
P73
>法律上の父子関係は、上に詳述したとおり生物学的な繋がりとは必ずしも同一ではなく、極めて社会的な問題なのであって、元の身体的な性によって受ける苦痛を解消するために「変えることが可能」な事実である。変更後の性別での社会生活につき不利益を解消させようとする性同一性障害者特例法の立法趣旨からみても、妻の出産した子との関係において、元の身体的な性を持ちだして振り出しに戻し、変更後の性別(他の性別)で生きることを阻む本件処分は、全く不当というほかはない。