衆 - 法務委員会 - 8号 平成24年06月15日

○井戸委員 
 続きまして、嫡出推定規定と、性別変更後に法律婚した夫婦のAID出生子の件について質問していきたいと思います。
 現在、法務省は、夫婦の子としての届け出があれば、第三者からの精子提供、いわゆるAIDというんですけれども、AIDであっても夫婦の子と認めています。一方で、性別変更後に法律婚をした夫と妻がもうけた子については、戸籍の身分事項に性別変更した事実が記載してあるために、生物的な親子関係はないとして、婚外子として扱っています。法律婚を認めながら、戸籍上は未婚の男女の子として扱っていて、父親を空欄にしています。
 この問題については、昨年の二月二十五日の予算委員会第三分科会でも質問いたしましたけれども、状況が変わってきているので、法務省並びに厚生労働省に伺っていきたいと思っています。
 ことし三月に、性同一性障害の男性が、性別変更後に法律婚をして第三者精子提供でもうけた子供を婚内子として認めるよう、戸籍訂正の審判を東京家裁の方に申し立てています。このケースは二〇一〇年一月に大きく報道されましたので、御記憶の方も多いと思います。
 当時、千葉法務大臣が、法整備が必要なのか、解釈をもう一度整理し直すのか、できるだけ早く検討、議論しなければならないと思っていると述べ、見直しを示唆されたのですが、その後、親子法制の先行措置は生殖補助医療の行為規制との不整合を招くおそれがあるとして、千葉大臣から当時の長妻厚生労働大臣に、生殖補助医療の行為規制の検討を求める文書が手交されています。
 法務省の政府参考人に伺いますが、二〇一〇年に千葉大臣が厚生労働省の生殖補助医療の議論を待ちたいとの見解を示されて二年余りが経過しましたが、法務省内ではこの件に関しましてどのような検討をされたのか、伺いたいと思います。
○原政府参考人 お答えいたします。
 生殖補助医療により出生いたしましたお子さんの法律上の親子関係の問題につきましては、その前提となります生殖補助医療行為に関する規制のあり方、どのような医療行為が許され、どのような医療行為が許されないか、こういう問題と密接に関連する問題でありますので、行為規制の問題と切り離して検討することは困難であるというふうに考えております。
 そういう意味で、今委員から御紹介いただきましたように、千葉法務大臣から厚労省に対して申し入れをしていただいたわけでございまして、私どもとしては、引き続き、関係機関の御理解、協力を得て、この問題を検討していきたいというふうに考えております。
○井戸委員 では、今度は厚生労働省の政府参考人に伺いたいと思います。
 千葉大臣の文書あるいは法務省からの検討の要請というのは、厚生労働省でどのような扱いになり、どのような検討が進められてきたのでしょうか。
○石井(淳)政府参考人 お答え申し上げます。
 議員御指摘のように、確かに、当時の千葉法務大臣から当時の長妻厚生労働大臣に対しまして、生殖補助医療の法整備に関してやりとりがあったと承知いたしております。
 当時の長妻厚生労働大臣からは、本件については一義的に民法上の問題である旨を事務レベルで回答しておくようにということがございましたので、私ども、その指示に従いまして、その旨の伝達をさせていただいたところでございます。
 この問題につきまして、特にAID、非配偶者間人工授精と申しますけれども、平成二十一年には年間三千件以上実施されるなど、既に医療行為として普及をしているところでございます。歴史も長く、六十年を超える歴史もあるということでございます。
 そして、私ども、平成十五年に厚生科学審議会生殖補助医療部会で報告書を取りまとめておりまして、AIDにつきましては、これまでに一万人以上の出生児が誕生しているけれども、大きな問題の発生はないということ、それから安全性などに照らして特段問題があるとは言えないということから、これを容認するとしているところでございます。
 こうしたことから、現時点では、法律上の夫婦の間で精子の提供を受けなければ妊娠できない場合に行われるAIDにつきましては、例えば代理懐胎などとは違いまして、その実施を規制する必要性はないというふうに考えているところでございます。
○井戸委員 今、厚生労働省さんの方からは、このことに関しては容認をしているということがありました。しかしながら、法務省の側からいったらば、生殖補助医療に関しての行為規制というのがまだないのでできないというお話だったんですけれども、実際、今おっしゃったとおりに、この生殖補助医療の歴史というのは、戦後、一九四九年に慶応大学病院に始まりまして、先ほど御指摘のように、もう一万人以上の方がいらっしゃいます。
 私も当事者の方からもお話を聞いたんですけれども、結局、AIDを受けても、お父さんは自分のお父さんだと思っている、血縁があると思って育ってきたんだけれども、例えば今だと離婚とかいろいろな問題があるんですよね、そうすると、途中で、実は、自分は第三者、それも誰かわからない方の精子をもらって生まれてきた子だということがわかって非常に悩んだりだとか、また、そこのところがない場合、血液型が違っていたりとかすると、もしかしたら自分は不倫で生まれた子なんじゃないかとか、いろいろなことで出自を知る権利が奪われてしまっているので、悩みが多いということも聞いています。
 こうしたことは、医療的にはそうした大きな問題はないということで先ほどもお話はありましたけれども、法整備が進まないことによってこうした実際にお困りの方たちというのは、また、今年間三千件というのを伺ってちょっとびっくりもしたんですけれども、多分、年々こういった方々の数というのはふえてきていると思うんですね。
 もう随分前に、二〇〇三年に厚生科学審議会の報告が出て、そして同じ年には法制審議会の試案というのも出ているんですよね。そこからもう八年、九年たつわけですから、ここに関しまして何らの法的な整備がされていないというのは、私は問題なんじゃないかなというふうに思っています。
 先ほど、性同一性障害で同じように第三者精子をもらってお子さんが生まれたケース、このケースの扱いのことも質問させていただいたんですけれども、こうしたところでの扱いの差別というのも、私はもう一つ大きな問題ではないかなというふうに思っています。
 例えば、性別変更していない、通常、いわゆるAIDを受けた方というのは、事実確認ができないから、戸籍窓口で出生届を出すときには、そのまま夫婦の子供として、嫡出子として認められます。ところが、性別変更した人に関しては、女性から男性になっているということが戸籍上わかってしまうので、そうすると、嫡出の推定を受けない。もともと生物的なつながりがないであろうということがそこでわかってしまうので、この子に関して言ったならば、法的婚をしているにもかかわらず、法的婚をしていない婚外子として子供は登録をされる、父親欄は空欄になっていく。
 これは原民事局長に伺いたいんですけれども、例えば、AIDで生殖補助医療を受けられた御夫婦が出生届を出すときに、自分はAIDを受けましたという証明書を出した場合、こうした場合は戸籍の窓口ではどのような扱いを受けますでしょうか。
○原政府参考人 今委員が言われたのは仮定の問題でありまして、余りそういうことは考えられないと思いますし、戸籍の窓口でどこまで審査するかという権限の問題もありますので、お答えは差し控えさせていただきたいと思います。
○井戸委員 いや、仮定の問題ではなくて、これだけ今、年間三千件というお話もあったので、いろいろな考え方の方がいらっしゃいますよね。嫡出子として届け出をしたいという方もいれば、そうじゃないという方もいらっしゃると思うんですよ。
 ここに関しましては、小川大臣が副大臣時代、二〇一一年の二月二十五日、私の予算委員会の分科会での同じような質問に答えて、形式的に何かが出てきた場合に関して言ったらば、それを嫡出子として認めることというのは、形式はそろわないことになりますよね、逆に言うと。父親であることというのが排除される可能性が出てきた場合には、何らかのことはしなければならないんじゃないかということでお答えをいただいているんです。それは違いますか。もう一回、原民事局長に伺います。
○原政府参考人 出生届の受理の段階では、今現在では出生証明書という公的資料がついているわけでございますので、そういう公的証明書で明らかに父子関係がないというふうなものが出る場合であれば、やはりそれは現行の民法の解釈上は難しいということにはなろうかと考えております。
○井戸委員 私もかかわりながらやらせていただいた民法七百七十二条、離婚後の懐胎のときには、医師の証明書をつければ嫡出の推定は外れますよね。これも同じように、医療行為をしているわけですから、医師の証明書で嫡出を外すということはできるんじゃないんでしょうか。それがあった場合に関して言ったら、嫡出子ではなくてこれを受理するという形もできなくはないというふうに思うんですけれども、いかがなものなんでしょうか。
○原政府参考人 一般的に、嫡出推定が及ぶ場合に、どのような証拠が出てきたときにその推定が及ばないことになるのか、なかなか難しい問題でございまして、今議論になっておりますAIDの問題につきましては、まさに民法七百七十二条制定当時に予定されていない状況を前提にして現行民法が適用があるのかどうかという問題ですので、やはりこの問題については、ちゃんと行為規制を前提にして適切な法整備をすることが法的安定性につながるというふうに思っております。
○井戸委員 民法が想定しないケースというのは、ずっと言われてきているわけです。これだけいろいろな問題が指摘をされているのに、想定をしないケースだからといって、逆に言ったら、それは、法改正をしなかったらそうしたところというのは子供たちも含めて救われない状態になっているわけですよね。だから、やはりこれは急ぐ必要があると思います。
 医療行為という名のもとに既成事実がどんどん積み重ねられていっている実態を放置したまま、そして、生殖補助医療の議論、先ほどはそれは認めているというような厚生労働省のお話もありましたけれども、そこを待ってというのは、やはりこれは遅過ぎる。これだけいろいろなことが起こってくると、やはり私は、先ほども言いましたけれども、子供たちの立場からすると、欧米なんか、こういったことが進んだところでいったならば、出自を知る権利というのは当然保障もされていかなければならないし、そうしたこともあるわけですから、ここのところに関してはちゃんとやらなければいけないと思っています。
 例えば、民法が想定していなかったという点でいったらば、二〇〇六年に、凍結精子で懐胎をした、夫の死後に凍結精子を利用してお子さんが生まれたというケースがありまして、この父子関係を認めるかどうかを争った裁判で、二〇〇六年の九月四日、最高裁は認知を認めないという判断を下しました。
 しかしながら、その補足意見として、
 我が国において戸籍の持つ意味は諸外国の制度にはない独特のものがあり、子にとって戸籍の父欄が空欄のままであることの社会的不利益は決して小さくはないし、子が出自を知ることへの配慮も必要であると考える。今後、生命科学の進歩に対応した親子法制をどのように定めるにせよ、今日の生殖補助医療の進歩を考えるとき、その法制に反した、又は民法の予定しない子の出生ということも避けられないところである。親子法制をどのように規定するにせよ、法律上の親子関係とは別に、上記の生殖補助医療によって生まれる子の置かれる状況にも配慮した戸籍法上の規定を整備することも望まれる
と述べられています。
 まさに待ったなしの検討が必要だと思います。この補足意見について、滝大臣、どのように受けとめられますでしょうか。
○滝国務大臣 基本的に、これは平成十五年当時、当時の与党の中でも議論をしてきた。ところが、なかなか賛否両論まとまらずに今日まで来ているわけでございます。
 したがって、そんな判決も参考にしながら、再度、各党の中で議論をまとめていくというのが一番大事なことだろうというふうに思っております。
○井戸委員 各党で議論も必要なんですけれども、やはりここのところは、実際にもう子供たちがそうした問題に、目の前に本当に置かれている状況というものをぜひとも御認識いただいて、法務省としても積極的な取り組みもお願いしたいと思っています。