自称性同一性障害と本物をどう見分けるか

精神科,18(3):326-329,2011
http://www.kahyo.com/new-se.html


自称性同一性障害と本物をどう見分けるか
針間克己


はじめに
性同一性障害は、我が国では長らくタブー視され、医学的関与もほとんどなされていなかったが、1998年に埼玉医科大学性別適合手術(いわゆる性転換手術)が行われて以降、状況は大きく変化した。複数の大学病院で性同一性障害治療のためのジェンダー・クリニックが設立され、民間でも、精神科クリニックや形成外科などで治療が取り組まれるようになった。主要な医療機関を受診したものは、2007年末までに延べ7000人を超えている。1)また、2003年には、性同一性障害者の戸籍の変更を可能とする「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律も制定された。2)3)この法律により、戸籍変更をしたものは、2009年末までに、1711人である。さらには、性同一性障害であることを公表した政治家や芸能人の活躍もあり、世間的にも広く認知されるようになった。
このような状況の中、性同一性障害を主訴として受診するものは、増えているように感じられる。筆者は2008年4月にメンタルクリニックを開業したが、2010年末までに、2000人を超すものが性同一性障害を主訴に受診している。しかしながら、これら主訴としての「性同一性障害」、すなわち「自称性同一性障害」の受診者のすべてが、性同一性障害と診断されるものでもない。本稿では、これら「自称性同一性障害」と「本物」の鑑別について論じる。

中略

おわりに
性同一性障害の「自称」と「本物」の見分け方について論じた。精神科医による性同一性障害の診断は、ともすれば当事者から「門番」といわれ、ホルモン療法や手術といった当事者の望む身体治療への障害として、批判を受けることもある。しかしながら「自称性同一性障害」のものが、精神科医による適切な診断を受けないままに、性別適合手術や精巣摘出術など不可逆的治療を受け、その後に後悔しているケースも筆者は体験している。それゆえ、当事者のためにこそ、精神科医性同一性障害を可能な限り正確に診断することが重要だと考える。


文献
1)針間克己:性同一性障害. 精神科臨床サービス, 第9巻4号,526-529p,2009
2)南野知惠子:[解説]性同一性障害者性別取扱特別法.日本加除出版,東京,2004
3)針間克己,大島俊之,野宮亜紀:性同一性障害と戸籍.緑風出版,東京,2007