[医療ルネサンス]性同一性障害(1)心は女性…手術を決断(連載)

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[医療ルネサンス性同一性障害(1)心は女性…手術を決断(連載)
 ◇通算5798回
 東京都の会社員(43)は、物心ついたころから、男性として生まれた体に違和感を覚えていた。大好きな遊びは、女子とのお手玉とあやとりだった。
 小学校高学年になると、いじめが怖くて、無理をして男子の輪に入った。付き合いでプラモデルを買っても作らず、自宅には未開封の商品があふれた。
 思春期には、ひげやわき毛、すね毛を丁寧に処理する毎日だった。
 バブル絶頂期の1990年ごろ、テレビで、男性が女装をして働くニューハーフの世界を知った。化粧をしてドレスをまとう華やかな姿にあこがれた。
 だが当時は、性別に違和感を持つ人への治療体制は整っておらず、戸籍の性別変更もかなわなかった。「いくら望んでも女性にはなれない」と、大学卒業後は一般企業に就職、男性として生きる道を選んだ。
 転機は2004年、「性同一性障害特例法」の施行だった。性同一性障害は、「体の性」と「自認する心の性」が一致しない病気。診断後にいくつかの条件を満たせば、戸籍の性別変更が可能になった。
 「もう今さら遅い」「会社は性別変更を受け入れてくれないのでは」。そんな思いの一方で、男のふりをしようと努力しても男らしくはなれず、「生きづらさと決別したい」という気持ちもあった。何年も悩み続けた末、やっと「女性として生きるのが本当の幸せ」との気持ちが固まった。
 07年、東京都内のクリニックで女性ホルモン注射の治療を始め、髪も伸ばした。09年には会社の保健師らに相談、会社側から「性別変更を理由に解雇することはない」との回答を得た。
 その後、性別違和感を持つ人が多く通う「はりまメンタルクリニック」(東京都千代田区)を受診、定期的に通院した。
 性別違和感は、統合失調症患者が抱く妄想でも起こるが、院長の針間克己さん(精神科)の診察や臨床心理士のカウンセリングを受けた結果、性別違和感が長く続いていることや他の病気でないことが確かめられ、性同一性障害と診断された。精巣摘出などの性別適合手術や家裁への手続きを経て、11年9月、女性への戸籍変更が認められた。
 今は、変更前と同じ職場で働く。同僚の戸惑いを感じる時は、積極的にコミュニケーションをはかり、女性として認めてもらうよう心がける。
 「ようやく自分らしく生きられるようになった。性別の違和感に苦しみ、本当の自分を取り戻したいと望む性同一性障害のことを、多くの人に知ってほしい」(このシリーズは全6回)


[読売新聞社 2014年4月16日(水)]