レインボーマーチが聞こえる:性的マイノリティーの日常/4 /北海道

http://mainichi.jp/hokkaido/shakai/news/20110207ddlk01040089000c.html
レインボーマーチが聞こえる:性的マイノリティーの日常/4 /北海道
 ◆性同一性障害

 ◇家族の応援に感謝 仲間のために行動を
 面接官が「えっ?」と驚いた表情で、履歴書の性別欄と自分の格好を見比べた。「またか……」。女性の体で生まれたが、心は男性という性同一性障害の小幡直輝さん(36)は、何度も落胆を味わった。勤めていた保険会社では断トツの営業成績だった。なのに合併を機に退職し、誘いを受けた企業の面接を受けると、すべて不採用。「前例がない」との文書を送ってきた会社もあった。

 「面倒くさいな。自分でやっちゃえ」と、30歳で起業。有限会社「だいち」の社長として、居酒屋や食品販売など幅広い事業を展開する。多忙な仕事の合間には、学校などへ性同一性障害の講演に出向き、所属する経営者団体でも、自分の状況をオープンにして同じ仲間への理解を求めている。

 性同一性障害は、性的マイノリティー(LGBT)の中では理解が進んでいる方だ。04年には戸籍の性別を変更できる特例法が施行され、09年までに約1700人が認められた。だが、性転換手術を受けていることや、子供がいないことなど厳しい要件があり、医療や支援の体制も十分とは言えない。直輝さんも戸籍の名前は変えられたが、手術していないため性別は「女」のままだ。

 直輝さんは物心付いた頃から、自分を男の子だと思っていた。スカートをはかされているのが不思議で「そのうちチンチンが生えてくる」と考えていた。小学校には青やグレーのジャージーで通い、いつも短髪だった。

 小4で迎えた初潮。頭の中が真っ暗になった。女性らしくなっていく自分の体に、どうしてもなじめない。胸が目立つのが嫌で、猫背になった。思春期に入るとけんかに明け暮れ、高校は1年の夏で自主退学。「これからは男として生きよう」と、白糠町の実家を離れ帯広へ出た。髪形をリーゼントにし、土木作業の仕事をした。

 そんなわが子を、母良子さん(64)はなかなか受け入れられなかった。男の格好で帰省した直輝さんから「頭の中は男なんだ」と告白されたが、理解できない。土砂降りの中、「帰ってくるな」と追い出したこともあった。「男の子だと考えると、小さい頃からの行動の理由が分かる」と納得できたのは、それから2年がたっていた。

 直輝さんは現在、隔週で道内唯一の専門外来がある札幌医大病院に通い、ホルモン療法を受けている。健康保険は利かず、生命保険に入るのも難しい。

 積極的に自分を語るのは、親から絶縁される人もいる中で、家族に応援してもらえることへの感謝があるからだ。以前メディアの取材を受け、顔を出すかどうか相談した際、良子さんは「あんたは犯罪者じゃない」としかった。恵まれている分、仲間のために行動したいと思う。

 直輝さんが経営する札幌・ススキノの居酒屋は、良子さんが切り盛りする。気っ風のいい温かい人柄が、客を和ませる。親子にとっても、仲間にとっても、大切な場所だ。=つづく

毎日新聞 2011年2月7日 地方版