朝日新聞 アピタル けんこう処方箋
http://apital.asahi.com/article/shohousen/2015103000020.html
性同一性障害、健保の適応を
斎藤利和 (さいとう・としかず)
2015年11月 3日
多くの人は、男性に生まれたら男性として自分を認識し成長する。女性も同様だ。
しかし、生まれついた性別に違和感や不快感を覚え、二次性徴の時期になると、様々な体の変化や、男性もしくは女性として扱われることに違和感や苦痛を覚える人々がいる。「性同一性障害」と呼ばれる人々である。
これまで、性同一性障害の人と接していると、当然のように「男」であり「女」なのだが、神が性器をつけ間違えたとしか思えないほど心は反対の性そのものなのだ。
だが、性同一性障害の人たちは、心理的、身体的、そして社会的に様々な困難と向き合わなくてはならない。そのため、精神的な援助だけでなく、自分の体と心の性をできる限り一致させたいという願いに対しても、医学的な助けが必要になる。
1997年5月、日本精神神経学会の性同一性障害に関する委員会は、治療について精神療法、ホルモン療法、手術療法など治療法ごとに適したケースを解説した「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」を公表した。
98年10月には、日本で大学の倫理委員会が承認した初めての性別適応手術(性転換手術)が埼玉医科大で行われた。
さらに2004年7月には、「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」が施行。一定の条件であれば、性同一性障害者の戸籍上の性別変更を認めた。
こうして見ると、性同一性障害の人々にも、ようやく手が差し伸べられたように感じる。しかし、問題は多い。
最大の問題は、性転換手術などの身体治療が健康保険の適応外であり、患者さんは高額な医療費を負担しなければならないことである。
日本精神神経学会、日本形成外科学会、日本産婦人科学会、日本泌尿器科学会は連名で、「性同一性障害に対する手術療法の保険適応に関する要望」を11年11月に厚生労働大臣に提出した。しかし、身体治療の健康保険適応のめどは立っていない。
もう一つの問題は、国内で性同一性障害に詳しい医療従事者や施設が不足していることだ。患者のうち、国内で望む治療を受けられる人はごく少数であり、外国で手術を受け、その合併症や後遺症に苦しんでいる人は少なくない。
性同一性障害の医療は、いわば患者さんの生き様を支援する未来型の医療である。医療の前進のためにも手厚い医療政策が求められている。