境界を生きる:読者の反響特集 多様な性、認める社会を

http://mainichi.jp/select/science/news/20101122ddm013100039000c.html
境界を生きる:読者の反響特集 多様な性、認める社会を
 ◇性別の悩みに共感/「男女」線引きへの疑問も
 「男性、女性に加え『第三の性』が必要」「性はグラデーション」。自らの性別を巡り苦悩する人の姿を伝えるシリーズ「境界を生きる」には、昨年9月のスタート以来、さまざまな反響が届いています。多様な性を受け入れ、誰もがありのままに生きられるために社会はどうあるべきか。反響の一部を紹介し、改めて考えます。【丹野恒一】

 シリーズではこれまで、染色体やホルモンの異常により男女の区別が明確でない「性分化疾患」や、心と体の性別が一致しない「性同一性障害」の人たちを紹介してきた。

 大阪府の大学生(29)からは「体は男性ですが、女性として生きようとホルモン療法を受けています」とのメールが届いた。自分を語る時は「性同一性障害」という言葉でなく、体の性別と異なる性別を生きるという意味の「トランスジェンダー」を使っている。

 「『普通』の男か女でなければ『異常』だというのは医学の考え方。自分に障害や病気があるとは考えていない」。ジェンダー論を学ぶうちに、あいまいな性の自分を受け入れ、生きづらさを乗り越えていく勇気を持てたという。

 医療の対象ではないが性的マイノリティーとして生きている人たちからの感想もある。東京都府中市のアルバイト、倉本千恵子さん(42)は「性同一性障害性分化疾患が取り上げられるのはとてもうれしいが、私たちのような同性愛者はどのように社会に訴えればいいのかと考えてしまう」と不安を漏らす。

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 京都市でカウンセリングなどを行っている心理療法士の前川幸美さん(51)は、性別の悩みを訴える人が以前より増えたように感じている。完全な男性・女性になろうと手術や戸籍の変更をして後悔する人もおり、「なぜ男女の区別が必要なのか」と疑問がこみあげるという。「例えば『男女性』といった第三の性を設けてはどうか。新たな枠にはめ込むだけとの批判もあるだろうが、自分を男とも女とも思えない人が精神的に安定し、ありのままに生きていける性別になり得るのでは」

 「性的マイノリティーでも一人一人違う」「自然界には多様な性がある。男か女か線を引かねばならないのは、人間社会の問題」。そんな声もある。

毎日新聞 2010年11月22日 東京朝刊