<性的マイノリティー>自殺対策「声なき声」聞いて 「大綱」見直し、関心向ける動き

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<性的マイノリティー>自殺対策「声なき声」聞いて 「大綱」見直し、関心向ける動き
2012年4月13日(金)13:00
 ◇同性愛者ら高い未遂率 周囲の無理解、偏見で疲弊

 国の自殺対策の指針「自殺総合対策大綱」が、07年の策定から5年を経て近く見直されるのを前に、同性愛や性同一性障害など性的マイノリティーを対象にした対策の重要性が注目され始めた。性的マイノリティーは自殺の危険性が高い「ハイリスク群」にあたるということが政治や行政に認識されることで、こうした人たちへの偏見や差別をなくしたり、生きる力を与える施策につながることが期待される。【丹野恒一】

 「自ら死を選ぶことでしか苦しみを伝える方法がないこの社会を変えていきたい」

 3月半ば、参院議員会館の会議室。性的マイノリティーの自殺防止に取り組む民間グループ「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」が呼び掛けた院内集会で、同性愛の男性が、国会議員や各省庁の担当者らを前に15年前の自殺未遂に至る経験を語り始めた。

 グループの共同代表、明智カイトさん(34)=活動名。物心がついたころから仕草が女の子のようだとからかわれたという。自覚はなかったが「性的なことだということだけは何となく分かっていたので、親や先生などの大人には相談できなかった」。

 中学生になると同級生から暴力を受けたり、「ホモ」「オカマ」とののしられ、相談した教師からは逆に「女っぽい君にも問題がある。直した方がいい」と言われた。そのころ、初めてクラスの男子生徒に恋愛感情を抱いた。

 心身症になり、高校は中退。大検(当時)を経て看護師や介護福祉士を目指そうと思い立ったが、両親に「女性の仕事だから駄目」「お前が同性愛者ならば縁を切る」と否定された。

 過去のいじめのフラッシュバックと将来への絶望に襲われ、19歳の時、ビルの8階から飛び降りた。「家族の無理解や社会の偏見との闘いに疲弊していた。苦しい現実から逃げるには、命を絶つという選択肢しかなかった」

 運良く物置の屋根がクッションになり、全治6カ月の重傷ながら命は取り留めた。それを機に、やっと親子の対話が始まった。自身も「助かった命を、同じ思いで苦しむ人のために生かそう」と前を向いて歩き始めた。

     ◇

 同性・両性愛者をサポートする医師やソーシャルワーカー、教員らでつくる会「AGP」共同代表で臨床心理士の平田俊明さんは、3月の院内集会で「(苦しい思いの)当事者が自ら声を上げないでもいいようになってほしい」と訴えた。

 性的な悩みが原因で自殺した場合、その理由はなかなか表に出にくいと言われるが、平田さんは「自殺未遂をした同性・両性愛の男性の割合は異性愛者と比較して約6倍も高い」という国内の研究結果を紹介。「性的マイノリティーうつ病などになる割合が高く、しかも通常なら『まだ自殺まではしない』と考えられる段階で自殺しようとする人が多いのが特徴」と語る。

 その理由として平田さんが挙げたのが「脆弱(ぜいじゃく)性」。成長過程のあらゆる場面で偏見にさらされるため、自己否定と深い孤立感の中でアイデンティティーが形成され「根っこの部分が弱いまま大人になる傾向がある」という。平田さんは、教員の養成プログラムや研修で、性的マイノリティーに対する肯定的な態度を身につけさせることの重要性を指摘した。

     ◇

 日本の性同一性障害診療の拠点、岡山大学病院では、99年の「ジェンダークリニック」開設から09年までの患者1154人のうち、6割が自殺を考えたことがあり、3割は自傷行為や自殺未遂を経験していた。自殺につながりやすい就労問題との関係を調べた10年の調査(患者数55人)でも、半数以上が性同一性障害との関連で辞職や解雇の経験があった。

 中塚幹也・岡山大教授が理事長を務める性同一性障害学会は昨秋、自殺総合対策大綱の見直しに向け「ジェンダーセクシュアリティーの視点で、自殺問題に対応する内容を盛り込んでほしい」との要望をまとめた。

     ◇

 政治の場でも、性的マイノリティーに関心を向ける動きが出てきた。民主党は2月、党人権議員連盟の体制を改め、初めて「性的マイノリティー小委員会」を作った。

 委員長は、16年連続で自殺率が全国ワーストを記録している秋田県選出で、自殺対策を自らの主要政策に掲げる松浦大悟参院議員。松浦氏は「雇用情勢などが厳しい中で、さらに性的マイノリティーとしての悩みが上乗せされると、当事者は本当にきつい。この問題は、人権に取り組む姿勢を測るリトマス試験紙になる」と話す。

 小委員会では「いのちリスペクト。」のメンバーや、同性愛を明らかにしている駐日デンマーク大使、研究者らを勉強会に招き、近く大綱見直しへの意見をまとめる。

 3月11日にスタートした24時間通話無料の「よりそいホットライン」(0120・279・338)で、「性別や同性愛の相談」専用窓口をとりまとめている「“共生社会をつくる”セクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク」(通称・共生ネット)の原ミナ汰代表は「性的マイノリティーの苦しみは見えにくいけど、『声なき声』があることが知られ、みんなができるところから心の扉を少しずつ開けば、きっと生きやすい社会になる」と期待している。

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 ◇性的マイノリティー

 性を構成する要素として▽生物学的な性▽自分自身をどの性別と考えるか▽どの性別が恋愛対象か――などがあるが、そのいずれかが多数派の人とは異なる人たち。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー性同一性障害)の頭文字から「LGBT」と総称されることもある。周囲に明かさずに生きる人も多く、正確な統計はないが、染色体やホルモンの異常で生物学的な性の特徴がはっきりしない「性分化疾患」は2000人に1人、心と体の性の不一致に悩む性同一性障害は1万〜3万人に1人、同性・両性愛者は40人に1人程度いるとも言われる。