性同一性障害――児童期・青年期の問題と理解 その2

本書の特徴は、その治療方針にある。
性同一性障害児」に対し、性典型的行動をとるように、行動療法を行う。
すなわち、MTF児には、男児的遊びをすれば、ほめ、女児的遊びをすれば、無視する。


こういった治療方針への批判に対しては、次の理由から正当性があるとする。
・いじめの軽減
・基底にある精神病理に対する治療
・成人期の性同一性障害の予防
・成人期の同性愛の予防


最後の「同性愛の予防」に関しては、その正当性の批判に対して、グリーンのコメントを紹介している。
P338
>子どもの成長を監督する親の権利は古くから認められてきた原則である。できるかぎり異性愛者になるよう育てようとしてはならないと誰が言えるであろうか。もし、その特権が否定されるなら、子どもを無神論者に育てる権利も、聖職者に育てる権利も否定されるべきということなのだろうか。


すなわち、本書の趣旨を平たく要約すると、
「子どもの性同一性障害は、将来、性転換者や同性愛になるかもしれないので、それを予防するため、典型的な性行動をするように働きかけろ」
というものであろう。
そう考えると、本のタイトルの「psychosexual problems(性心理的問題)」は、実は「同性愛」の婉曲的表現であることに気がつく。すなわち真のタイトルは「児童・青年期の性同一性障害と同性愛」ではないのだろうか。


ちなみに、治療結果として、「治療により反対の性行動が減り典型的な性行動が増えた」ような結果は出ているが、何もしなかった群と比較して、大人になって、有意に「性同一性障害が減った」「同性愛が減った」というデータはどこにも示されてないのだが。


ついでに言っておくと、特別な専門機関に行かなくても、学校や家庭においては、多くの場合、典型的な性行動をとれば褒められるし、反対の性行動をとれば怒られるわけで。
で、子どもというのは大人の顔色を見るので、ある時期から、大人の機嫌を取るべく、それなりの「ふさわしい」性行動をとりはじめるのもよくある話で。
でも、長期的には結局我慢の限界に達して…。

性同一性障害――児童期・青年期の問題と理解

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Gender Identity Disorder and Psychosexual Problems in Children and Adolescents

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