カッコーの巣の上で

精神科医といとしては恥ずかしい限りなのだが、映画「カッコーの巣の上で」をまともに見たことがなかったが、先日、NHK衛星放送でついに見た。
この映画の感想を書くことは、精神科医としての力量、識見が問われることでもあり、おそろしい限りだが、恥を承知でかくことにする。


内容は,wikipedeiaでも参考にしてもらうとして。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%B7%A3%E3%81%AE%E4%B8%8A%E3%81%A7


表面的な感想
・主人公のマクマーフィー、詐病疑いだとのことだが、反社会性人格障害で、責任能力はありだろう。
・でも、そういう人物の鑑定入院先が、慢性病棟だと騒ぎが起きて当然だと思う。
・それにしても、病棟の管理はまずすぎる。師長に全部管理を押しつけて、精神科医はいったいなにをしているのか。


やや深い感想
・とはいえ、師長は、トラブルのリスクを承知で、マクマーフィーに期待をしていたのでは。すなわち、慢性病棟で無為自閉な患者さんに対して、マクマーフィーの存在、働きかけにより、患者さんが自発性を回復していくのに期待していたのでは。
・だからこそ、それが悲惨な結末をむかえた時には、深い絶望におそわれ、従来通りのルーティンな日課をこなそうとしたのでは。
・マクマーフィーは逃げそこなったのではなく、逃げなかったのでは。すなわち、離院したところで、社会もまた精神病院と同じく管理社会であり、真の逃げ場などないと思ったからでは。


深い感想
・テーマは「人間は本当に自由を欲しているのか」あたりでは。
すなわち、現代社会は、この精神科慢性病棟と同じく、真の自由は望まない人々と、人間の自由を管理する事こそが善だと思う人々の共同作業、予定調和によって成立しているのでは。
だからこそ、この映画で自由を獲得できたのは、現代西洋文明とは価値観を異にする、ネイティブアメリカンただひとりであったのでは。