産科、小児科、性同一性障害医療

医療崩壊が叫ばれる、産科、小児科。
その産科、小児科と性同一性障害医療(主に外科領域)を比較してみた。


・ 高い安全性への期待。
「お産は無事に生まれてあたりまえ」という世間の認識。小児科も大事なわが子のために高い安全性への期待。性同一性障害治療も、もともと身体的には問題ないことより、安全性への強い期待がある。


・ 実際には多いリスク。
出産は実際にはかなりハイリスクな医療行為。小児も診断・治療は困難なことが多い。性同一性障害の外科治療も多くの合併症やリスクを伴う。


・ 期待とリスクのギャップからくるトラブル
安全と思ったのに、合併症等起きると、医療訴訟等のトラブルがおきやすい。


・ 医師への過剰な負担
医師不足のところに多くの患者が集まり、少数の医師に過剰な負担がかかる。


・ 「生死にかかわる」という使命感
上記のような問題があっても、産科では「命の誕生に携わる」、小児科では「子供の命を守る」という使命感がもて、モチベーションとなりうる。いっぽうで、性同一性障害の外科的治療は、倫理的にももともと議論があるところ。さらに、10年前の治療初期においては「性別変更しないと死ぬしかない」といった強い違和感を持つものが主体であったため、「命を救う」に近い使命感が持てたが、最近では、必ずしも性別違和がさほど強くなくても「生活の質の向上」のため治療を求める場合もあり、「命を救う」ほどの使命感は持ちにくい。


・ 「自分がやらねば」という使命感
産科、小児科では地域医療の担い手として、「自分がやらないと」という使命感を持ちうる。いっぽうで緊急性の乏しい性同一性障害治療においては、海外で手術を受けるという選択肢もありうる。そのため、手術予定者が、海外で手術をしてきたり、「国内より海外のほうがうまい」といわれたりする。そのため「自分がやらないと」という使命感を持ちにくい。


・ 開拓者としての使命感
産科・小児科と違い、性同一性障害治療には「開拓者」としての使命感はこれまでにはあった。しかし、治療開始10年たち、そのような熱気は薄れてしまった。


・ 経済的報酬
産科医・小児科医の不足に悩む地域では、医師に多額の報酬が出る(それでも集まらないが)。いっぽう国内で、性同一性障害の外科的治療を行う医師は、主として大学病院勤務のため、高い技術の割りに、収入は多いものではない。


というわけで、性同一性障害医療は、産科・小児科のマイナス部分は共通するが、プラス部分は共通しないという結果。
すなわち医療崩壊の進む産科・小児科よりさらに厳しい状況だと思う。