高松亜子さん

2007.2.17.朝日新聞 ひと
高松亜子さん
最先端の性同一性障害治療を率いる形成外科医


心と体の性が食い違った性同一性障害GID)の人の性転換手術に、300件以上携わってきた。
GIDの人それぞれ、苦しみの程度は異なる。中には淡々と手術まで来る人もいる。「一人一人違うストーリーを持ち、望まれる手術もまた違う。そのニーズに応えていきたい」
「公式には国内初」とされる性転換手術に取り組んだ98年以来、治療をリードする埼玉医大総合医療センターに所属。昨秋からは、精神科医産婦人科医など30人からなるGID医療班の中核として、手術を取りまとめている。
その「国内初」手術では30代で医療班に志願、乳房の切除を担当した。学術書でしか見たことのない技術。息をのんで執刀した。
性転換手術は、顕微鏡下で血管や神経を接合する「マイクロサージャリー」という方法を駆使する難手術だ。手術前日は必ず頭の中で仮想の「執刀」をする。術後も検証の意味をこめ、頭の中で執刀を再現する。だから「手術は3回分の労力がかかる」。腕が鈍らないよう、血管の模型を使った練習も欠かさない。
師事した形成外科教授の薫陶を受け、GID治療を志すようになったが、その教授が3月で退職。初手術に参加した中でただ一人残った医師として後を託された。成果を出し続ける重圧と「薄氷を踏む思い」で戦う。