「本の読み方 スロー・リーディングの実践 」

「本の読み方 スロー・リーディングの実践 」を読む。

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

前半は、速読術のインチキ性や、「声に出す」読書のあほらしさをスパッと切っていて、かっこいい。
でも後半は、なんか現代国語の読解のテクニックみたいで、かなりかっこ悪い。
さらに、161ページには、
>職務を全うすることに脅迫観念的な義務感
と、「強迫観念」のありがちな誤字があって、インテリを気取る作家の文章としては致命的にかっこ悪い。


まあ、でもカフカの短編「橋」が紹介されていて、興味深い内容だった。
与えられたidentityへの抵抗と崩壊、みたいな。
短文なので関心のある方は以下お読みくだされ。


カフカ 「橋」
>私は橋だった。冷たく硬直して深い谷にかかっていた。こちらの端につま先を、向こうの端に両手を突きたてて、ポロポロと崩れていく土にしがみついていた。風にあおられ裾がはためく。下では鱒の棲む渓谷がとどろいていた。こんな山奥に、はたして誰が迷いこんでくるだろう。私はまだ地図にも記されていない橋なのだ――だから待っていた。待つ以外に何ができる。一度かけられたら最後、落下することなしには橋はどこまでも橋でしかない。
 ある日の夕方のことだ――もう何度くり返してきたことだろう――私はのべつ同じことばかり考えていた。頭がぼんやりしていた。そんな夏の夕方だった。渓谷は音をたてて黒々と流れていた。このとき、足音を聞きつけた。やって来る、やって来る!――さあ、おまえ、準備をしろ。おまえは手すりもない橋なのだ。旅人がたよりなげに渡りだしたら気をつけてやれ。もしもつまずいたら間髪を入れず、山の神よろしく向こう岸まで放ってやれ。
 彼はやって来た。杖の先っぽの鉄の尖りで私をつついた。その杖で私の上衣の裾を撫でつけた。さらには私のざんばら髪に杖を突きたて、おそらくキョロキョロあたりを見回していたのだろうが、その間ずっと突きたてたまま放置していた。彼は山や谷のことを考えていたのだ。その想いによりそうように、私が思いをはせた矢先――ヒョイと両足でからだの真中に跳びのってきた。私はおもわず悲鳴をあげた。誰だろう? 子供か。幻影(まぼろし)か、追い剥ぎか、自殺者か、誘惑者か、破壊者か? 私は知りたかった。そこでいそいで寝返りを打った――なんと、橋が寝返りを打つ! とたんに落下した。私は一瞬のうちにバラバラになり、いつもは渓流の中からのどかに角(つの)を突き出している岩の尖りに刺しつらぬかれた。