ほんとうのじぶん ―性同一性障害の子どもたち 8.身体治療

http://www.kobe-np.co.jp/rensai/200607gid/08.html
8.身体治療 (2006/08/09)
低年齢ゆえに苦悩深く

 「十五歳くらいまでに、お金をためて、タイで性別適合手術をさせるつもり」

 女の子の心を持つ男の子、兵庫県播磨地域の小学二年優(ゆう)(7つ)=仮名=と、県外の小学四年春(はる)樹(き)(9つ)=仮名=が会った際、春樹の母が言った。

 「ニューハーフの人に、早く手術しないと声変わりをするって言われて…。(手術)ツアーを扱っている会社も教えてもらったんです」

 優の学校では、優の身体が男であることを、ほかの児童や保護者は知らない。「女児」として通学する優の最も大きな課題は、第二次性徴を迎えたときの身体の男性化だ。

 六月の参議院厚生労働委員会。優の報道を受け、性同一性障害の子どもたちのサポート体制に関する質問に、川崎二郎厚労相はこう答えた。

 「低年齢における性同一性障害者は、成長の過程で心と身体の性別が一致していくことも多く、治療選択に関する自己決定や自己責任などの面からも慎重を要する問題であることから、主に精神面の治療によるべき」

 日本精神神経学会ガイドラインに則した答弁で、身体的特徴を変化させる「ホルモン療法」の開始年齢を十八歳以上と定めていることも確認した。

 十八歳まで優は十一年、春樹も九年。春樹の母が海外に突破口を求める背景には、そういった事情がある。

◇   ◇

 岡山大学医学部の研究チームが、二〇〇〇年九月から〇四年二月に受診した性同一性障害の患者(十五―七十歳)を対象にアンケートを実施した。

 「ホルモン療法の開始は何歳がいいか」という問いに、身体は女性で心は男性(FTM)の百十七人は、平均一五・六歳、身体は男性で心は女性(MTF)の六十四人は、同一五・五歳と答えた。

 ガイドラインで二十歳以上と定められている「性別適合手術」については、FTM一八・二歳、MTF一七・三歳だった。

 身体的治療は、後で元に戻せないため、慎重論が大勢だが、開始年齢については、ガイドラインと患者の希望に差がある。同医学部の調査では、患者の八割が小学校までに性別違和感を自覚し、第二次性徴を迎えていた。十八歳までなすすべなく進む身体の変化。十代の患者は、深刻な精神的苦痛に耐えている。

◇   ◇

 今、一部の医療現場で使われているのが、「抗男性(女性)ホルモン剤」だ。身体を変化させるホルモン剤と違い、成長を止める効果がある。これもある意味では身体に影響するが、ガイドライン上に明確な規定はない。

 「十八歳まで待てない」

 優の母は、抗男性ホルモン剤を検討しつつ、副作用を心配する。

 「高学年になったら、どちらの性で生きていくか固まるだろう。そのとき、本人に聞こうと思う」

 一生を共にする身体の治療。だからこそ慎重に。だからこそ早急に。母の思いは、常にそこを行き来する。