ほんとうのじぶん ―性同一性障害の子どもたち 3 .告 白

http://www.kobe-np.co.jp/rensai/200607gid/03.html
3 .告 白

(2006/08/03)
「認められたい」と一歩

 「まだカミングアウト(周囲への告知)してないの?」

 「隠しているわけではないけれど、子どもたちに変な伝わり方をしないか怖くて」  

 兵庫県播磨地域の小学二年、優(ゆう)(7つ)=仮名=の母は、学校や教育委員会に、優が性同一性障害であることを説明し、女児として通学が認められた。しかし、級友や保護者には打ち明けたことがない。

 「軽く流されて、悪いうわさが流れるだけ」。あらたまって話すことが、かえって事を荒げると考えていた。

 カミングアウトとは、本来、当事者による公表だが、幼い児童の場合は難しい。周囲に、いかに理解してもらうか。それは、親にとっても最大の課題だ。

 県外に住む小学四年の春(はる)樹(き)(9つ)=仮名=の母は、これまでに二回、クラス保護者会で事情を説明している。優(ゆう)たちと出会った日、会話はこの一点で大半の時間を割いた。

◇   ◇

 春樹の母は、入学直後のクラス保護者会で、自己紹介の際、さりげなく言った。

 「私の子は保育園から女の子の格好をしていて、言葉も女の子です」

 保護者たちがどよめいた。

 どう受け止めれば良いか分からない様子だった。何かを問われることもなかった。その日は、静かに終わった。

 ただ、担任教諭は親身になってくれた。専門医を紹介し、診察に連れ添ってくれた。校長にも掛け合い、春樹は女子トイレを使い、水着も女児用を着ることが認められた。

 夏休み前の保護者会で、春樹の母は、「小児性同一性障害という診断が下りた」と報告した。

 言い出しにくいことを告白した母の胸の内を思い、担任は泣きながら援護した。保護者たちにも涙が広がった。

 「治るんじゃないの」「見た目は何ともないじゃない」

 「何でも話して」

 予定の時間を過ぎるほど、話し合いは春樹のことで一色だった。そして、「いいじゃない」という雰囲気で終わった。

 優の母は、この話をじっと聞きながら、「障害を理解してもらえる可能性を感じた」。こわばっていた気持ちが、少し和らいだ。

◇   ◇

 春樹の母の「カミングアウト」は、良い結果ばかりを生んだわけではなかった。

 しばらくすると、兄が友達に「おまえの弟、オカマ」と言われ、泣いて帰ってきた。春樹も、たびたび母に泣きすがった。広まることによる弊害があった。

 だから、春樹の母は取材を受けることに抵抗があった。周囲もみな反対した。迷いを断ち切ったのは、春樹が漏らしたひと言だった。

 「認められたい」

 自分が自分でいるために、春樹自身が踏み出した一歩(カミングアウト)だった。