トムをジェーンに。2

最近、テレビで「十戒」を見ているニコルを、何とかテレビから離して、「特別な女の子」であることをどう思うか聞いてみた。
「どうして特別な女の子なのかわかる?」と、母が聞いた。
「どうしてかというと・・・。私は男の体の中に、女の脳があるからでしょ」と普段は透き通るような声なのに、低い声でぼそりとニコルは言う。
「どんな気分?いい感じ?悪い感じ?」
「よくないね」とニコルは言う。
母親が、姿について満足しているか聞くと、ニコルはいいえと答える。
「自分のどこを変えたいの」
「わ、わたしのペニス。」とニコルはつぶやく。
「ペニスをどうしたいの」と、母がたずねる。
「き、切り取りたいの」とニコルはとてもソフトに答えた。
「それからどうしたいの」と驚いたローレンは聞いた。ローレンはニコルがペニスを嫌っているというのを初めて聞いたからだ。
「それをハンマーで叩きつぶしたい」とニコルは言う。
「え?」
「ハンマーで叩きつぶすの」と、ニコルはよりはっきりと主張した。


のちの、ローレンが語るには、彼女はいつも自分1人で航路無き空を飛んでいる気分だという。「誰もそんな子どもは知らない。5才で性別移行して学校に通う子なんて。どこにもそんな子供の育て方のマニュアル本はない」


妊娠中はニコルは「女の赤ちゃん」のようだった。でも生まれたときは、紛れもない男の子だった。


「私たちは、男の子服を着せたわ」とローレンは分厚いアルバムをめくりながら語る。赤ちゃん用のサッカー服を着て、兄や姉に抱かれた小さなニコラスの写真が続いた。写真のニコラスは幸せそうだ。しかしローレンが言うには、かれはずっと女の子として扱われることを望んでいた。


「最初は、女の子扱いするのもかわいいと思った。小さな子のつめにマニキュアをするのはいいと持ったし、人形遊びもかまわないと思った。お兄ちゃんたちも似たようなことを一時期していたし。一時期のことなら反対する理由はないわ」


そうして、赤ちゃんのニコラスはハイヒールもはくことを許された。リトルマーメイドやバービー人形でも遊んだ。髪の毛も少しのばした。でもこれだけでは満足しなかった。ニコラスはもっと、要求した。ある日両親が思いもがけないことを要求した。


ローレンはパソコンに向かって仕事をしていた。そこに2才のニコラスがやってきた。アンダーソン家の他の子供と同様に、男女の体の違いは知っていた。ニコラスは「妖精がやってきて、私のペニスをバギナに変えて欲しいの」と言った。


3歳児健診で、ローレンは小児科医に、ニコラスの奇妙な望みについて相談した。「一時期的なことですよ」、と言ってもらえると思っていた。しかし、期待とは違い、小児科医は心配そうな表情になり、専門家に相談するようにとアドバイスされた。


驚いたローレンは、大学で学んだDSMのページをめくった。そして、トランスセクシュアリズムの医学的用語である「性同一性障害」と言う項目を見つけた。そこには、ニコルの行動がそのまま記述されていた。


両親はCoral Springsの心理士である、Marcia Schultzにみてもらった。当時ニコラスは3才になっていたが、最初の面接で、SchultzはニコラスがGIDであると確信した。


「ニコラスは女性になりたいトランスセクシュアルだ」とSchultzは言う。


Schultz はHeather Wrightを紹介した。Heather Wrightは、きさくなMTFTSで、Green Acres で女性パートナーと3人の子供と一緒に暮らしている。Heather Wrightはアンダーソン夫妻と会うと暖かい握手をした。両親はニコラスを彼女に見せた。彼女はすぐに、小さなニコラスは自分の体を不快に思っていることに気がついた。


Wrightは回想する。「彼はとても静かだった。着ている服がとても嫌だったんだね。女の子の服が着たかったんだよ。持っていた物と言えば、リトルマーメイドのサンダルだけだったから。」


SchultzとWrightにあった後、アンダーソン夫妻は、人に見られない家の中や、知ってる人に会わないディズニーワールドなどでは、ニコラスが女児のように振る舞い女児の格好をするのを許すようになった。この夏は、キャンプで女児の水着を着ることも許された。しかし、5才になるまでは、就学前保育の場では、男児扱いされ、放課後だけ女児として過ごすことに満足しているように見えた。


「ちょうど5才になったら、爆発したの」とローレンは言う。「5才になったら反旗を翻し、男児の服を着ることを全く拒否するようになったの。毎日が戦いだった。彼女はすっかり違う子供になってしまった。」


いまのところ、家では全くの女児で、そとでは「中性的」ということになっている。しかし友達の多くは(友達はみんな女子だが)、「彼女」と呼んでいる。しかし、ニコルは日々、男らしさを消そうと努めている。


「中性的にと努力したわ。でも無駄だった。毎日、少しずつ女児の服が増えていった。そして最後にはすっかり女の子の格好になった」とローレンは言う。